大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和53年(行ウ)162号 判決

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告の昭和四六年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の法人税について昭和四八年八月二九日付けでした更正及び過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも審査裁決により一部取消された後のもの)のうち、所得金額五億五六九三万五五四三円を超える部分を取り消す。

2  被告が原告の昭和四七年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の法人税について昭和五一年一月三一日付けでした更正及び過少申告加算税賦課決定のうち、所得金額一億五六二〇万五九八七円を超える部分を取り消す。

3  被告が原告の昭和四八年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の法人税について昭和五一年一月三一日付けでした更正及び過少申告加算税賦課決定(ただし、昭和五一年七月三一日付けの再更正及び過少申告加算税再賦課決定により減額された後の部分で、かつ、いずれも審査裁決により一部取消された後のもの)のうち、所得金額三億七三六四万九二八四円を超える部分を取り消す。

4  被告が原告の昭和四九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の法人税について昭和五一年七月三一日付けでした再更正及び過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)のうち、所得金額五億五九九五万〇七五七円を超える部分を取り消す。

5  被告が原告の昭和四九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の会社臨時特別税について昭和五一年七月三一日付けでした更正及び無申告加算税賦課決定(ただし、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)のうち、法人税額二三九三万二〇〇〇円を超える部分を取り消す。

6  被告が原告の昭和五一年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の法人税について昭和五三年三月二八日付けでした更正及び過少申告加算税賦課決定のうち、所得金額四億七八九九万五一六四円を超える部分を取り消す。

7  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  (処分等の経緯)

原告の昭和四六年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「四六事業年度」という。)、昭和四七年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「四七事業年度」という。)、昭和四八年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「四八事業年度」という。)、昭和四九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「四九事業年度」という。)及び昭和五一年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「五一事業年度」という。)の各法人税並びに四九事業年度の会社臨時特別税に係る処分等の経緯は、別表一の1ないし6記載のとおりである。

2  (違法事由)

しかしながら、四六事業年度の法人税に係る更正及び過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)のうち所得金額五億五六九三万五五四三円を超える部分、四七事業年度の法人税に係る更正及び過少申告加算税賦課決定のうち所得金額一億五六二〇万五九八七円を超える部分、四八事業年度の法人税に係る更正及び過少申告加算税賦課決定(ただし、再更正及び過少申告加算税再賦課決定により減額された後の部分で、かつ、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)のうち所得金額三億七三六四万九二八四円を超える部分、四九事業年度の法人税に係る再更正及び過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)のうち所得金額五億五九九五万〇七五七円を超える部分、四九事業年度の会社臨時特別税に係る更正及び無申告加算税賦課決定(ただし、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)のうち法人税額二三九三万二〇〇〇円を超える部分並びに五一事業年度の法人税に係る更正及び過少申告加算税賦課決定のうち所得金額四億七八九九万五一六四円を超える部分(以下、右のとおり減額され、又は取り消された後の各更正を「本件更正」、同各決定を「本件決定」という。)は、いずれも原告の所得を過大に認定したもの又は所得を過大に認定した処分を前提とするものであって違法である。

3  よって、原告は、被告に対し、本件更正及び本件決定の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2は争う。

三  被告の主張

1  四六事業年度に係る処分の適法性

(一) 法人税に係る更正について

(1) 原告の申告に係る所得の金額(昭和四七年四月一日付け修正申告によるもの)は、五億〇六〇四万七四九八円である。

(2) 原告の申告に係る所得の金額に加算した金額は合計七六八九万六九七七円で、その内容は次のとおりである。

〈1〉 減価償却超過額 一四六万八九二八円

原告は、簡易間仕切りの建築費九八万四九八〇円及び事務機器の改良費九〇万円の合計金額一八八万四九八〇円を修繕費として損金に算入したが、右支出額は資本的支出と認められるので、右損金算入を否認し、改めて償却計算を行い、償却限度超過額として一四六万八九二八円を加算した。

〈2〉 棚卸商品の評価減否認額 一五四万一二九二円

原告は、棚卸商品のうち、中古商品について、キンツレー会計機等の一部を期末においてスクラップ価額(〇円)で評価したが、右棚卸商品の評価は一五四万一二九二円と認められるので、右評価差額一五四万一二九二円を評価減否認として益金に加算した。

〈3〉 取扱手数料収入計上漏れ 一四〇三万一三〇八円

原告のロンドン支店経由輸入商品の取扱手数料収入一二六二万八八六〇円及び同未収入分四三万三五五一円並びにニューヨーク支店経由輸入商品の取扱手数料収入九六万八八九七円の合計金額一四〇三万一三〇八円が計上漏れとなっていたので、これを益金に加算した。

〈4〉 受取手数料計上漏れ 一二四万三七八二円

原告の産業機械事業部の受取手数料一二四万三七八二円が計上漏れとなっていたので、これを益金に加算した。

〈5〉 棚卸商品計上漏れ 一四三三万五一一五円

原告の産業機械事業部のチップアンドプレート等の棚卸商品高計三九七万一六九三円、一般消費財事業部のラックスソープ等の棚卸商品高計四二五万一九九六円及び輸出事業部のアンプ部品等の棚卸商品高計六一一万一四二六円の合計金額一四三三万五一一五円は、期末棚卸資産に計上すべきものと認め、これを益金とに加算した。

〈6〉 仕掛商品の評価減否認 一五七万二一三〇円

原告は、期末仕掛品の評価を購入資材の価額だけにより評価しており、直接経費(人件費等)が配付漏れであるから、右仕掛商品の評価額を再計算し、配付漏れの額一五七万二一三〇円を仕掛商品の評価減否認として益金に加算した。

〈7〉 旅費交通費中否説 八一万六二九五円

原告は、昭和四六年五月三〇日に旅費交通費(帰任旅費)として八一万六二九五円を損金に算入したが、右支出額は原告の費用とは認められないので、右損金算入を否認し、益金に加算した。

〈8〉 リベート収入の計上漏れ 一七六万六七二四円

原告は、日本欧州運賃同盟からの支払運賃に対するリベートの額一七六万六七二四円を収入に計上していなかったので、益金に加算した。

〈9〉 申告調査の誤りによる加算額 一四四三万六五〇九円

原告は、申告調整(法人税法施行規則別表四及び五に関するもの)に際し、事業税認定損戻入額一三八二万六八八〇円及び未収手数料戻入額六〇万九六二九円を過大に計算していたので、右合計額一四四三万六五〇九円を所得金額に加算した。

〈10〉 受取配当等益金不算入額の計算誤り 一万一七九八円

原告は、受取配当等の益金不算入計算において、配当等の額から控除する負債利子等の額一万一七九八円を控除していなかったので、右金額を受取配当等の益金不算入額の過大計上として否認し、益金に加算した。

〈11〉 退職給与引当金損金算入限度超過額 一円

原告は退職給与引当金の損金算入限度額を三億七四二一万六七八七円としたが、円未満の端数を切り捨てることにより三億七四二一万六七八六円となるので、右差額一円を退職給与引当金損金算入限度超過額として否認し、益金に加算した。

〈12〉 交際費の損金不算入額 二五一二万〇六九三円

ア 原告は、支出交際費の額を一億七七四七万三〇六三円として右交際費の損金不算入額である一億〇七六一万二八五〇円を所得に加算した。

イ しかしながら、旅費・交通費・会議費等の勘定科目で損金処理した中に、交際費に該当する支出額が合計一二六一万一三二四円あることが認められた。

ウ さらに、広告宣伝費の中に交際費に該当する支出額一四二五万四三四九円があることが認められた。

エ したがって、交際費と認めた右一二六一万一三二四円の旅費・交通費・会議費等及び一四二五万四三四九円の広告宣伝費を原告の申告に係る交際費一億七七四七万三〇六三円に加えた合計額である二億〇四三三万八七三六円を支出交際費の額と認定し、損金不算入額を一億三二七三万三五四三円と算定したうえで、右損金不算入額と原告の申告に係る損金不算入額との差額二五一二万〇六九三円を所得金額に加算した。

〈13〉 繰延資産の償却限度超過額 五五万二四〇二円

原告は、看板二点計一七万四〇〇〇円、教材映写セット二点計三五万〇二五〇円、陳列ケース一一万四〇〇〇円の資産の贈与に要した合計六三万八二五〇円を広告宣伝費として損金に計上していたが、右支出額は繰延資産に該当するものであるから、右六三万八二五〇円の損金算入を否認し、改めて繰延資産の償却計算を行い、当期における償却限度超過額五五万二四〇二円を所得金額に加算した。

(3) 原告の申告に係る所得の金額から減算した金額は合計一六九三万三五一〇円であり、その内容は次のとおりである。

〈1〉 未納事業税認定損 九七五万五七六〇円

昭和四五年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度についての修正申告額は、所得金額が八一二九万八九六三円増加しているので、右増加所得金額に対応する事業税相当額九七五万五七六〇円を損金の額に算入した。

〈2〉 国内源泉所得に含まれない所得金額 七一七万七七五〇円

原告は、本支店向け輸出取引に係る収益の額三四六〇万八二四四円及び同費用の額二七四三万〇四九四円をそれぞれ国内源泉所得に係る収益及び費用の額に含めて計上したが、右取引によって生じた所得は国内源泉所得に含まれないものであり、国内源泉所得に係る益金の額及び損金の額からそれぞれ減算すべきものであるから、右益金の額から損金の額を控除した七一七万七七五〇円を所得金額から減算した。

(4) 以上のとおり加算及び減算すると、原告の所得の金額は五億六六〇一万〇九六五円となり、四六事業年度の法人税に係る本件更正は、その所得の金額が右所得の金額と同額であるから適法である。

(二) 過少申告加算税賦課決定について

前記のとおり、原告が当期における所得を過少にして法人税の申告をしたので、国税通則法六五条一項の規定を適用し、更正により新たに納付すべき法人税額二二〇三万六〇〇〇円に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した一一〇万一八〇〇円(端数計算をしたもの)の過少申告加算税の賦課決定をしたものであり、同決定は適法である。

2  四七事業年度に係る処分の適法性

(一) 法人税に係る更正について

(1) 原告の申告に係る所得の金額(昭和四八年九月七日付け修正申告によるもの)は、一億四四五七万〇八〇一円である。

(2) 原告の申告に係る所得の金額に加算した金額は合計一八〇五万二四九四円で、その内容は次のとおりである。

〈1〉 事業税認定損戻入不足額 一二八万〇五二〇円

原告は、事業税の認定損の戻入額を八四七万五二四〇円として申告をしたが、前期から繰り越した事業税認定損の額は九七五万五七六〇円であるから、当期における戻入額は差引一二八万〇五二〇円不足するので、右戻入不足額を所得金額に加算した。

〈2〉 事業税認定損過大計上否認額 一三七万五二〇〇円

原告は、被告がした前期における更正により増加した所得金額に対応する事業税相当額を八五七万〇七六〇円としたが、前期における更正(審査裁決後のもの)による増加所得金額は五九九六万三四六七円であり、同金額に対応する事業税相当額は七一九万五五六〇円であるから、原告の申告額との差額一三七万五二〇〇円を事業税認定損過大計上として所得金額に加算した。

〈3〉 減価償却資産の償却限度超過額四五万五〇四六円

申告調整(法人税法施行規則別表一六(一)に係るもの)による計算誤りのうち、前期から繰り越されている償却超過額で当期において認容する償却不足額は九七万二七三六円であるところ、被告がした前期における更正において修繕費一八八万四九八〇円を否認し資本的支出とした部分に係る当期の原告の償却計算誤りによる償却限度超過額は一四二万七七八二円であるから、右差額四五万五〇四六円を所得金額に加算した。

〈4〉 交際費の損金不算入額 一四九四万一七二八円

ア 原告は、当期における交際費の支出額を一億九〇九八万五九五八円として右交際費に対応する損金不算入額である一億二九九〇万四四六四円を所得金額に加算した。

イ しかしながら、旅費交通費の勘定科目で損金処理をした中に、交際費に該当する支出額八九〇万四八〇六円があることが認められた。

ウ さらに、広告宣伝費として損金処理した中にも交際費に該当する支出額一二四四万〇五二〇円があることが認められた。

エ したがって、交際費と認めた八九〇万四八〇六円の旅費交通費等及び一二四四万〇五二〇円の広告宣伝費を原告の申告に係る交際費の額一億九〇九八万五九五八円に加算した二億一二三三万一二八四円を支出交際費の額とし、損金不算入額を一億四四八四万六一九二円と算定したうえで、右損金不算入額と原告の申告に係る損金不算入額一億二九九〇万四四六四円との差額一四九四万一七二八円を所得金額に加算した。

(3) 原告の申告に係る所得の金額から減算した金額の合計は五六万一六〇二円で、その内容は次のとおりである。

〈1〉 減価償却超過額の認容額 三三万五〇五二円

原告は、前期における更正に係る減価償却超過額として、当期において三三万五〇五二円を所得金額に加算したが、当期における減価償却費は、四五万七一九八円を既に償却不足額として認容したので、償却超過額として所得金額に加算する必要のないものであるから、右金額三三万五〇五二円を所得金額から減算した。

〈2〉 繰延資産償却超過額の認容額 二二万六五五〇円

前期における更正において繰り越された繰越資産の償却超過額五五万二四二〇円のうち、当期において認容する償却額二二万六五五〇円を所得金額から減算した。

(4) 以上のとおり加算及び減算すると、原告の所得の金額は一億六二〇六万一六九三円となり、四七事業年度の法人税に係る本件更正は、その所得の金額が右所得の金額の範囲内であるから適法である。

(二) 過少申告加算税賦課決定について

前記のとおり、原告が当期における所得を過少にして法人税の申告をしたので、国税通則法六五条一項の規定を適用し、更正により新たに納付すべき法人税額六〇八万〇二〇〇円に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した三〇万四〇〇〇円(端数計算をしたもの)の過少申告加算税の賦課決定をすべきであるところ、本件決定は、二八万六六〇〇円の過少申告加算税の賦課決定をしたもので、これは右金額の範囲内であるから、本件決定は適法である。

3  四八事業年度に係る処分の適法性

(一) 法人税に係る更正について

(1) 原告の申告に係る所得の金額は、三億六三三四万一八〇七円である。

(2) 原告の申告に係る所得の金額に加算した金額は合計二五七四万〇三五一円で、その内容は次のとおりである。

〈1〉 繰延資産償却超過額 六二五万八三三四円

原告は、コンサルタント費用にコンピューターの導入に関するソフトウエアー開発費用の支出合計額六六〇万円を含めて損金に算入していたが、右ソフトウエアーの開発費用の支出額は繰延資産に該当するもので、右六六〇万円の損金算入を否認し、改めて繰延資産の償却を行い、償却超過額六二五万八三三四円を所得金額に加算した。

〈2〉 控除所得税の損金不算入不足額 一万二六〇〇円

原告は、控除所得税の損金不算入額を一万二六〇〇円過少に計上していたので、右金額を所得金額に加算した。

〈3〉 交際費の損金不算入額 一九四六万九四一七円

ア 原告は、当期における交際費の支出額を二億〇六八八万八四五九円として右交際費に対応する損金不算入額である一億四三二〇万一六五五円を所得金額に加算した。

イ しかしながら、原告が旅費交通費等の勘定科目で損金処理した中に、交際費に該当する支出額五二二万円があることが認められた。

ウ さらに、広告宣伝費の中にも、交際費に該当する支出額二〇九七万三一九五円があることが認められた。

エ したがって、交際費と認めた五二二万円の旅費交通費等及び二〇九七万三一九五円の広告宣伝費を原告の申告に係る交際費の額二億〇六八八万八四五九円に加算した二億三三〇八万一六五四円を支出交際費の額と認定し、損金不算入額を一億六二六七万一〇七二円と算定したうえで、右損金不算入額と原告の申告に係る損金不算入額一億四三二〇万一六五五円との差額一九四六万九四一七円を所得金額に加算した。

(3) 原告の申告に係る所得の金額から減算した金額の合計は二八三万七一八九円であり、その内容は次のとおりである。

〈1〉 事業税認定損戻入過大額 二〇万二六六〇円

原告は、前期から繰り越された未納事業税の認定損戻入額を八五七万〇七六〇円として所得金額に加算したが、前期における更正による事業税の認定損は八三六万八一〇〇円であり、同額が当期戻入額となるので、右金額の差額二〇万二六六〇円を前期繰越未納事業税戻入過大額として所得金額から減算した。

〈2〉 事業税認定損 一九八万五二八〇円

前期における更正による増加所得金額一六五四万四九〇三円に対応する事業税相当額一九八万五二八〇円を所得金額から減算した。

〈3〉 減価償却超過額の認容額 四五万七一九八円

四六事業年度分における更正の減価償却超過額のうち、当期における償却認容額四五万七一九八円を所得金額から減算した。

〈4〉 繰延資産償却超過額の認容額 一九万二〇五一円

四六事業年度分における更正の償却超過額のうち、当期における償却認容額一九万二〇五一円を所得金額から減算した。

(4) 以上のとおり加算及び減算すると、原告の所得の金額は、三億八六二四万四九六九円となり、四八事業年度の法人税に係る本件更正は、その所得の金額が右所得の金額の範囲内であるから適法である。

(二) 法人税に係る過少申告加算税賦課決定について

前記のとおり、原告が当期における所得を過少にして法人税の申告をしたので、国税通則法六五条一項の規定を適用し、更正により新たに納付すべき法人税額八三七万五三〇〇円に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した四一万八七〇〇円(端数計算をしたもの)の過少申告加算税の賦課決定をしたものであり、同決定は適法である。

4  四九事業年度に係る処分の適法性

(一) 法人税に係る更正について

(1) 原告の申告に係る所得の金額は、四億三八九二万〇九七八円である。

(2) 原告の申告に係る所得の金額に加算した金額は合計二億九六四八万五〇五五円であり、その内容は次のとおりである。

〈1〉 減価償却超過額の計算誤り 九七万四八三二円

原告は、償却超過額のうち当期において損金に認容される額を四三七万六九二八円としながら、申告において減算した額は五三五万一七六〇円としたもので、右差額九七万四八三二円が過大に減算されていたことになり、これを所得金額に加算した。

〈2〉 工事収入計算漏れの額 二億一二六九万五五六〇円

原告は、産業機械事業部における油槽船の加熱管及び油圧管装置の工事収入のうち二億一二六九万五五六〇円の収入金額に計上していなかったが、右工事は、当期において完成後引渡しが完了しているものであるから当期における収入金額に計上すべきものと認め、右金額を所得金額に加算した。

〈3〉 工事原価過大計上否認額 七九五万八五六一円

原告は、産業機械事業部の一般工事に関する仕訳の記帳誤りから、未払金に対応する工事原価七九五万八五六一円を過大に計上していたので、右工事原価の過大計上を否認し、同金額を所得金額に加算した。

〈4〉 工事仕掛品加算額 三八二万八九七四円

原告は、昭和四九年一〇月六日、株式会社浅野精機に対して支払った開発費一五万円を工事仕掛品に計上すべきであるが、計上せず、また、支出製図費中、期末仕掛工事に対応する工事仕掛品の計上額を四五八九万四二六三円とすべきであるのに四二二一万五二八九円として差引き三六七万八九七四円を過少に計上したので、右合計金額三八二万八九七四円を工事仕掛品として所得金額に加算した。

〈5〉 前払経費否認額 七〇万三九七〇円

原告は、車借入料の中に前払相当分の支出七〇万三九七〇円があるのに右金額を損金に計上していたので、右前払経費の損金算入を否認し、同金額を所得金額に加算した。

〈6〉 保証金加算額 一六〇万円

原告は、雑費として習志野カントリークラブの入会金六〇万円及び交際費として相模原ゴルフクラブの入会金一〇〇万円を損金に計上していたが、右支出は保証金として資産に計上すべきものであるから、右支出合計一六〇万円の損金算入を否認し、同金額を所得金額に加算した。

〈7〉 棚卸商品計上漏れ 一六一万一四九四円

原告は、期末棚卸商品として計上すべき洋酒等の額一六一万一四九四円を計上しなかったので、右金額を棚卸商品計上漏れとして所得金額に加算した。

〈8〉 繰延資産償却超過額 三二一万七〇〇〇円

原告は、コンピューターの導入に関するソフトウエアーの開発費をコンサルタント費として損金に算入していたが、右支出は繰延資産に該当するものと認められるので、右支出の損金算入を否認し、繰延資産として償却計算をし、当期における償却限度超過額三二一万七〇〇〇円を所得金額に加算した。

〈9〉 受取配当益金不算入過大計上額三四六八円

原告は、受取配当等の益金不算入額を四万八四二一円としたが、右金額は三四六八円過大に計上されているので、同金額の益金不算入を否認し、所得金額に加算した。

〈10〉 雑収入計上漏れ 一二四八万五九五四円

原告は、昭和四九年三月三〇日、シャープ株式会社から受領した拡売対策費一九四万〇七九三円及び当期中における海外等からの受取手数料一〇五四万五一六一円の合計額一二四八万五九五四円を収入金額に計上していないので、右合計金額を雑収入計上漏れとして所得金額に加算した。

〈11〉 価格変動準備金の繰入超過否認額三一九万六四三七円

原告は、価格変動準備金を一億八二六一万六七三四円であるとして損金に算入したが、右金額は積立限度額を三一九万六四三七円超過しているので、右積立限度超過額の損金算入を否認し、同額を所得金額に加算した。

〈12〉 交際費の損金不算入額 四八二〇万八八〇五円

ア 原告は、当期における支出交際費の額を二億二六三二万〇四八五円として右交際費に対応する損金不算入額である一億六七五二万〇二六九円を所得金額に加算した。

イ しかしながら、支出コミッションの経費として損金に算入した中に交際費に該当する支出が一六五五万二九三二円あることが認められた。

ウ また、車借上料として損金に算入している経費の中に交際費に該当する支出が一三九二万円あることが認められた。

エ さらに、広告宣伝費として損金に算入している経費の中に交際費に該当する支出が二五六一万一五七八円あり、その内訳は次のとおりである。

(ア) 右広告宣伝費二五六一万一五八七円のうち一一九万二一一七円は、原告の船用機械事業部が行った技術研修会(得意先の担当者役員等を招待した懇親会)の開催に関して支出されたものである。

(イ) 右広告宣伝費二五六一万一五八七円のうち二四四一万九四七〇円は、洋酒事業部がバーテンダー誘発費、バー直接振興費等の費用として支出したものである。

オ 原告は、相模原ゴルフクラブ入会保証金一〇〇万円を支出交際費に計上したが、右支出は保証金として資産に計上すべきものであって、交際費として計上されるべき支出ではない。

カ したがって、交際費と認めた支払コミッション一六五五万二九三二円、車借上料一三九二万円、広告宣伝費二五六一万一五八七円を原告の申告に係る支出交際費の額二億二六三二万〇四八五円に加算し、交際費とは認められないゴルフクラブ入会金の支出一〇〇万円を減算した二億八一四〇万五〇〇四円を支出交際費の額と認定したうえ、右支出交際費の額に対応する交際費の損金不算入の額である二億一五七二万九〇七四円と原告の申告に係る交際費の損金不算入額一億六七五二万〇二六九円との差額四八二〇万八八〇五円を所得金額に加算した。

(3) 原告の申告に係る所得の金額から減算した金額の合計は一億六三九〇万一六八五円であり、その内容は次のとおりである。

〈1〉 減価償却超過額の認容額 二三万八七〇三円

四六事業年度分における更正において繰り越された減価償却資産の償却超過額のうち当期における償却認容額二三万八七〇三円を所得金額から減算した。

〈2〉 減価償却超過額の計算誤り 八万一〇〇〇円

原告は、減価償却超過額八万一〇〇〇円を過大に所得金額に加算していたので、同金額を所得金額から減算した。

〈3〉 未収手数料過大加算額 一万三七三八円

原告は、未収手数料一万三七三八円を過大に所得金額に加算したので、同金額を所得金額から減算した。

〈4〉 工事原価認容額 一億五八〇七万〇七八三円

前記の産業機械事業部における工事収入計上漏れに対応する工事原価相当額一億五八〇七万〇七八三円を所得金額から減算した。

〈5〉 繰延資産償却超過額の認容額 一三一万五八〇一円

ア 前期における更正において繰り越された繰延資産の償却超過額のうち当期における償却認容額一二二万円を所得金額から減算した。

イ 四六事業年度分における更正において繰り越された繰延資産の償却超過額のうち当期における償却認容額九万五八〇一円を所得金額から減算した。

〈6〉 事業税認定損戻入額の過大計上額一四四万六九八〇円

原告は、事業税認定損戻入額を一四四万六九八〇円過大に所得金額に加算していたので、同金額を所得金額から減算した。

〈7〉 事業税認定損 二七三万四六八〇円

前期における更正により増加した所得金額に対応する事業税相当額二七三万四六八〇円を所得金額から減算した。

(4) 以上のとおり加算及び減算すると、原告の所得の金額は五億七一五〇万四三四八円となり、四九事業年度の法人税に係る本件更正は、その所得の金額が右所得の金額と同額であるから適法である。

(二) 法人税に係る過少申告加算税賦課決定について

前記のとおり、原告が当期における所得を過少にして法人税の申告をしたので、国税通則法六五条一項の規定を適用し、更正により新たに納付すべき法人税額五三〇三万三六〇〇円に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した二六五万一六〇〇円(端数計算をしたもの)の過少申告加算税の賦課決定をしたものであり、同決定は適法である。

(三) 会社臨時特別税に係る更正について

原告が会社臨時特別税法三条に規定する納税義務者に該当するにもかかわらず無申告であったので、前記法人税に係る本件更正に基づき、会社臨時特別税の課税標準法人税額等を次のとおり計算して更正をしたものであって適法である。

(1) 算出法人税額 二億二八六〇万一六〇〇円

(2) 法人税の課税標準である所得金額五億七一五〇万四三四八円

(3) 課税標準法人税額

((1)×(2)-5億/(2))

二八六〇万一七二一円

2億2860万1600×

5億7150万4348-5億/5億7150万4348=2860万1721

(4) 会社臨時特別税額 ((3)×10/100)

二八六万〇一〇〇円

2860万1000×10/100=286万0100

(四) 会社臨時特別税に係る無申告加算税賦課決定について

原告が右のとおり無申告であったので、国税通則法六六条一項の規定を適用し、会社臨時特別税に係る本件更正に基づき納付すべき会社臨時特別税の額二八六万〇一〇〇円に一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算した二八万六〇〇〇円(端数計算したもの)の無申告加算税の賦課決定したものであって適法である。

5  五一事業年度に係る処分の適法性

(一) 法人税に係る更正について

(1) 原告の申告に係る所得の金額(昭和五三年一月一三日付修正申告によるもの)は、四億七七〇四万五六一七円である。

(2) 原告の申告に係る所得の金額に対する加算及び減算の内容は、次のとおりである。

〈1〉 交際費等の損金不算入額 六七三万七二五〇円

ア 原告は、申告において、支出交際費等の額を二億〇二四八万八四五三円として租税特別措置法六二条一項の規定により右交際費等の損金不算入額の計算を行い、一億四八三九万七七四八円を交際費等の損金不算入額として所得金額に加算していた。

イ しかしながら、原告が広告宣伝費等の立替金として処理した中に、原告が原告の得意先、仕入先その他事業に関係のある者に対し、接待、供応、慰安、贈答等の行為のため支出した金額八五七万七〇六二円の交際費等の額が認められた。

ウ そこで、原告の申告に係る支出交際費等の額二億〇二四八万八四五三円に右交際費等の額八五七万七〇六二円を加算した二億一一〇六万五五一五円を支出交際費等の額とし、租税特別措置法六二条一項の規定により交際費等の損金不算入額の計算を行い、六七三万七二五〇円を交際費等の損金不算入額として所得金額に加算した。

〈2〉 価格変動準備金の繰入超過額 三二一万一二二七円

原告は、価格変動準備金として一億一九〇八万九八五五円を損金に算入していたが、右金額は、積立限度額を三二一万一二二七円超過しているので、右積立限度超過額の損金算入を否認し、同額を所得金額に加算した。

〈3〉 事業税認定額 一二六万一六八〇円

前期における更正による増加所得金額一〇五一万三二一五円に係る当期の事業税相当額一二六万一六八〇円を減算した。

(3) 以上の加算及び減算により、原告の所得の金額は、四億八五七三万二四一四円となり、五一事業年度の法人税に係る本件更正は、その所得の金額が右所得の金額と同額であるから適法である。

(二) 法人税に係る過少申告加算税賦課決定について

右のとおり、原告が当期における所得金額を過少に申告したので、国税通則法六五条一項の規定を適用し、更正により新たに納付すべき法人税額三四七万四八〇〇円に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した一七万三七〇〇円(端数計算をしたもの)の過少申告加算税の賦課決定をしたものであり、同決定は適法である。

四  被告の主張に対する認否及び反論

1  被告の主張1について

(一) (一)について

(1)は認める。

(2)の〈1〉ないし〈11〉並びに〈12〉のア及びイは認める。ウについて、広告宣伝費中、五一七万八九二七円が原告の交際費であることは認めるが、その余は否認する。広告宣伝費中、三五六万一四一二円はジェームス・ブキャナン・エンド・コムパニー・リミテッド(以下「ブキャナン社」という。)、四二九万二八九三円はタンクエリー・ゴードン・エンド・コムパニー・リミテッド(以下「ゴードン社」という。)、一二二万一一一七円はイー・レミー・マルタン・エンド・コムパニー(以下「マルタン社」という。)のそれぞれの交際費であって、右合計金額九〇七万五四二二円は原告の交際費ではない。エについて、本件の裁決後の段階では、被告の主張によれば同記載のごとき計算になることは認めるが、同記載中、広告宣伝費一四二五万四三四九円全額を原告の申告に係る交際費に加算し、損金不算入額を算定し、所得金額に加算した処分の効力を争う。〈13〉は認める。

(3)の〈1〉及び〈2〉は認める。

(4)について、被告の主張によれば同記載のごとき所得金額になることは認めるが、原告の所得金額が五億六六〇一万〇九六五円であることは否認し、更正が適法であるとの主張は争う。

(二) (二)について

被告の主張する所得金額に基づけば同記載のごとき計算となることは認めるが、前提となる所得金額は否認し、決定が適法であるとの主張は争う。

2  被告の主張2について

(一) (一)について

(1)は認める。

(2)の〈1〉ないし〈3〉並びに〈4〉のア及びイは認める。ウについて、広告宣伝費中、五四二万六六三九円が原告の交際費であることは認めるが、その余は否認する。広告宣伝費中、三〇四万四八〇二円はブキャナン社、一八七万四七五一円はゴードン社、二〇九万四三二八円はマルタン社のそれぞれの交際費であって、右合計金額七〇一万三八八一円は原告の交際費ではない。エについて、広告宣伝費一二四四万〇五二〇円全額を原告の申告に係る交際費に加算し、損金不算入額を算定し、所得金額に加算した処分の効力を争う。

(3)の〈1〉及び〈2〉は認める。

(4)について、被告の主張によれば同記載のごとき所得金額になることは認めるが、原告の所得金額が一億六二〇六万一六九四円であることは否認し、更正が適法であるとの主張は争う。

(二) (二)について

被告の主張する所得金額に基づけば同記載のごとき計算となることは認めるが、前提となる所得金額は否認し、決定が適法であるとの主張は争う。

3  被告の主張3について

(一) (一)について

(1)は認める

(2)の〈1〉、〈2〉並びに〈3〉のア及びイは認める。ウについて、広告宣伝費中、六二八万一五三五円が原告の交際費であることは認めるが、その余は否認する。 広告宣伝費中、四五一万八九七二円はブキャナン社、三〇〇万四二八三円はゴードン社、七一六万八四〇五円はマルタン社のそれぞれの交際費であり、右合計金額一四六九万一六六〇円は原告の交際費ではない。エについて、広告宣伝費二〇九七万三一九五円全額を原告の申告に係る交際費に加算し、損金不算入額を算定し、所得金額に加算した処分の効力を争う。

(3)の〈1〉ないし〈4〉は認める。

(4)について、被告の主張によれば同記載のごとき所得金額になることは認めるが、原告の所得金額が三億八六二四万四九六九円であることは否認し、更正が適法であるとの主張は争う。

(二) (二)について

被告の主張する所得金額に基づけば同記載のごとき計算となることは認めるが、前提となる所得金額は否認し、決定が適法であるとの主張は争う。

4  被告の主張4について

(一) (一)について

(1)は認める。

(2)の〈1〉ないし〈11〉は認める。〈12〉のアないしウ及びエの(ア)は認める。(イ)について、二四四一万九四七〇円中、九〇〇万九三一八円が原告の交際費であることは認めるが、その余は否認する。四二八万二八七三円はブキャナン社、三二四万六〇三八円はゴードン社、七八八万一二四一円はマルタン社のそれぞれの交際費であり、右合計金額一五四一万〇一五二円は原告の交際費ではない。オは認める。カについて、広告宣伝費二五六一万一五八七円全額を原告の申告に係る交際費に加算し、損金不算入額を算定し、所得金額に加算した処分の効力を争う。

(3)の〈1〉ないし〈7〉は認める。

(4)について、被告の主張によれば同記載のごとき所得金額になることは認めるが、原告の所得金額が五億七一五〇万四三四八円であることは否認し、更正が適法であるとの主張は争う。

(二) (二)について

被告の主張する所得金額に基づけば同記載のごとき計算となることは認めるが、前提となる所得金額は否認し、決定が適法であるとの主張は争う。

(三) (三)及び(四)について

被告の主張する所得金額に基づいて計算すれば、同記載のごとくなることは認めるが、前提となる所得金額は否認し、各決定が適法であるとの主張は争う。

5  被告の主張5について

(一) (一)について

(1)は認める。

(2)の〈1〉につき、アは認めるが、イ及びウについて、原告が八五七万七〇六二円の交際費を全額支出したことは否認する。そのうち、三一万三六八五円はゴードン社、七一三万三四九八円はマルタン社、一〇八万八四八九円はウィリアム・グランツ・エンド・サンズ・リミテッド(以下「グランツ社」という。)のそれぞれの交際費であって、右合計金額八五三万五六七一円は原告の交際費ではない。〈2〉は認める。〈3〉は被告の主張を前提として認めるが、前期における増加所得金額はない。

(3)の更正が適法であるとの主張は争う。

(二) (二)について

当該決定が適法であるとの主張は争う。

6  原告の反論

(一) 被告は、原告の広告宣伝費の中に原告の交際費に該当する支出があると主張するが、前記のとおり、そのうちの一部は、原告がブキャナン社、ゴードン社、マルタン社又はグランツ社と共同して行った広告宣伝、販売促進活動に含まれる交際行為について支出したものであるから、右各外国メーカーが費用負担の合意に基づいて負担した部分は、これら外国メーカーの交際費というべきであって、原告の交際費ではない。以下、この点を詳述する。

(二) 原告は、本店を英国に置き、世界各地に営業所及び子会社を有し、輸出入業務、海運、トラベルサービスその他多岐にわたる営業を営む商社であって、日本には、明治三一年一一月一一日に営業所を設置した。

原告の日本における営業所の消費財事業部は、ブキャナン社、ゴードン社、マルタン社及びグランツ社(以下「外国メーカー」という。)等の外国醸造業者や製造業社(以下「外国メーカー等」という。)の日本における総代理店として、外国メーカー等のウイスキー、ジン、ブランデー等の洋酒及び菓子類の輸入、販売を行っている。

(三) そして、右洋酒等を販売するためには、日本国内において広告宣伝活動を効果的に行うことが不可欠であり、原告は、外国メーカー等との協定により、外国メーカー等による一定金額の費用の負担のもとに、外国メーカー等と共同して広告宣伝及び販売促進活動を行っているが、広告宣伝費のうち、本件において、被告が原告の交際費であると主張し、原告が外国メーカーと共同して行った交際行為のために支出したものであると主張して争っている交際費の支出項目は、別表二の1ないし15記載のとおりである(以下、これらの行為を「本件交際行為」といい、これらの行為のために支出した費用を「本件交際費」という。)。

(1) 外国メーカーは、日本に支店をもっていないため、外国メーカーの商品の知名度及びシェアーを高めるための活動については、すべて外国メーカーとの協議のうえ、原告がほぼ実務の全般を処理する。「ほぼ」と限定を添えたのは、外国メーカーの者が来日し、直接、日本国内で右活動に参与することもあるからであって、例えば、マルタン社が二五〇周年を記念して世界的な規模で大々的なキャンペーンを企画するような場合、マルタン社の者が来日して行事や催しで挨拶等をし、主体的に知名度を高めるための活動を行う。また、外国メーカーの者が来日し、特約店会議、ゼミナール、飲食会等に出席して広告宣伝、販売促進活動を行い、新製品について、特約店、問屋等に説明を行う。逆に、日本から問屋、特約店等の者を外国に送り出し、外国メーカー側に工場説明、商品説明等を行わせる企画もある。これらに直接、間接に関連した費用が支出項目の中に見られる。

(2) 原告が総代理店として行う広告宣伝、販売促進活動は、広範囲で多岐にわたる。かなり普遍的、共通的に行われているものもあるが、時代により力点の置き方の変遷もあり、また、外国メーカーの意向、商品の特性によっても力点の置き方に差異が出る。原告が外国メーカーと共同して行う諸活動は、交際費に該当するものだけでなく、電波、活字、映像と多岐にわたるが、シェアーを拡大するためには、電波、活字、映像といった視聴覚に訴える方法のほか、問屋あるいはホテル、デパート等大量に消費、販売する所でも、当該商品を快く積極的に扱ってもらうこと、また、バー、クラブ等で積極的に使ってもらうことなどが極めて重要である。単にバープロモーションで当該洋酒を勧めるだけでは十分ではない。キャップ引換えを行ったり、当該ブランド名でゴルフ大会、ボーリング大会等を開き、バーテンダーや問屋の人達に喜んでもらう必要もある。また、当該ブランド名で、日本バーテンダー協会の種々の企画に対し賛助したり、記念品、商品、景品等を寄贈することもある。小売販売等には、当該洋酒のディスプレイコンテストを企画することもある。

(3) 以上の諸活動は、外国メーカーが行って何ら異とするに足りないところであるが、原告が外国メーカーの総代理店である限り、シェアーを拡大することによる経済的効果は双方に帰属するとの認識のもとに共同で行っているものである。

(四) 本件交際費の支出は、原告と外国メーカーとの協定により外国メーカーによる一定金額の費用の負担のもとに行われたものであり、各事業年度における各外国メーカーの負担額及び負担割合等は、別表三及び四記載のとおりである。右外国メーカーの負担分は、外国メーカーの交際費であって、原告の交際費ではない。

(1) 交際費に関する複数法人間の費用分担約束がある場合、これが特段に不合理、不自然なものでない限り、交際費が合意した分担額ないし分担割合に応じて各法人に帰属することは、租税法律主義、租税民主主義、実質課税主義等の要請から当然のことである。税における実質主義の考え方からは、交際費の実質的帰属が問題とされるべきであり、この観点からは、当事者間で費用分担の合意がなされていたか否か、当該支出が複数法人にとって、それぞれ経費としてみることができる性質を有するか否かといった点が重要である。本件交際費の支出は、原告及び外国メーカーが双方にとって共通の経費であるとの認識のもとに外国メーカーが一定額の負担を約束し、現実に双方にとって支出効果をもたらす支出がなされたものであるから、外国メーカーの負担に属する部分は外国メーカーに帰属すべき交際費であって、これを原告が支出した交際費と認定することは違法である。

(2) 租税特別措置法(昭和四八年法律第一六号による改正前のもの)六三条一項が規定する「支出する交際費等」の「支出する」の意義は、支出する法人の経済的損失、経済的負担においてなされるもの、すなわち、支出する法人にとって経費性をもつもので租税上も損金に算入され得るものを意味し、法人が他者のために立替払いした交際費、他者と共同して支出した交際費で他者が負担する部分、あるいは、法人が支出した交際費で他者からその負担分として受け入れた金額に相当する部分等は、いずれも他者の計算において行われたものであり、当該法人にとって経済的損失はなく、自己の確定決算においても交際費として経費には計上されず、税法上も損金に算入されないものであるから、これらはいずれも他者の交際費であり、たとえ当該法人の帳簿に右支出が記帳されていても、当該法人の交際費としては課税されないものと解される。以上は、実質課税の原則に立つ税法の解釈として当然の理であり、交際費に係る国税庁の行政解釈も同様である。すなわち、昭和五〇年二月一四日付け国税庁長官通達「租税特別措置法関係通達の制定について」例規の六二(一)-一六において、支出する交際費とは、法人が直接支出した交際費であると間接支出した交際費であるとを問わないとし、同業者の団体が供応、慰安、贈答等の行為をして、その費用を法人が負担した場合において(支出の主体は同業者団体であり、法人は会費等を納入することにより費用負担する。)費用の経済的実質負担者である法人の交際費であるとしている。さらに、同通達六二(一)-一二の(五)及び昭和五二年一〇月三一日付け国税庁長官通達三六によると、製造業者が卸売業者に対し、当該卸売業者が小売業者等を旅行等に招待する費用の全部又は一部を負担した場合、招待を行ったのは卸売業者であるが、その費用の実質的負担者である製造業者の交際費であるとし、支出した招待費用から製造業者から受け入れた負担額を差し引いた残額が卸売業者の交際費であるとしている。右の例では、製造業者が費用を負担したという事実が重要なのであって、旅行や観劇の企画を共同で立てたか否か、行為を共同で行ったか否かというようなことは詮索されていないし、また、その必要性もないのである。

(3) 原告と外国メーカーとの間の交際費の費用分担に関する折衝は、次のとおりの手順で行われる。

まず、毎事業年度開始前に、来るべき事業年度における広告宣伝活動の内容、目標売上数量、所要費用の額等について、外国メーカーから原告に対して指示があり、指示された目標を達成するため、原告が広告宣伝活動項目の内容ごとに積上げ計算した予算案を作成し、外国メーカーに提出する。外国メーカーは、内容を検討し、項目ごとに詳細な指示を与えながら予算を許可する。ここにおいて、外国メーカーは、いかなる用途のため、いかほどの金額を負担するということを原告に対し約束する。原告は、右外国メーカーによる負担額の合意に基づき、外国メーカーの承認を得た広告宣伝、販売促進活動を行う。もとより、経済活動であるから、経済環境、市況の変化に対して機敏に対処する必要があり、活動内容や予算額に変更が伴うのは当然のことであり、このような場合は、変更内容の規模、程度に応じ、必ず適宜の方法で外国メーカーの了解を求めており、原告が勝手に外国メーカーの計算において、予算にない支出を行ったり、予算内容を変更することができるものではない。当該事業年度が終了すれば、原告は、清算書(各一件ごとの支出について、支出年月日、支出先、支出内容が記載されている。)を支払証憑書類添付のうえ、必ず外国メーカーに送付し、外国メーカーの確認を受ける。

五  被告の再主張

1  交際費の帰属に関する基本的考え方

交際費については、課税実務上、交際行為を行い、これに係る費用を支出した法人にその支出効果が帰属するとみられる場合は、支出者である当該法人の交際費として課税処理がなされるのが原則である。もっとも、法人の支出する交際費等は、当該法人が直接支出した交際費等であると間接支出した交際費等であるとを問わないから、〈1〉二以上の法人が共同して接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為をして、その費用を分担した場合においても、それらすべての法人が分担割合に応じ交際費等を支出したものとされ(措置法通達六二(一)-一八参照)、〈2〉製造業者又は卸売業者がその製品又は商品の卸売業者に対し、当該卸売業者が小売業者等を旅行、観劇等に招待する費用の全部又は一部を負担した場合のその負担額は、負担した製造業者又は卸売業者の交際費等に含まれる(措置法通達六二(一)-一二参照)。これらの通達は、二以上の法人が接待や供応等の交際行為を共同して行った場合若しくは製造業者等が卸売業者等と協賛又は共催の形で交際行為を行った場合において、これらの法人が当該交際行為に係る費用を分担して負担したときは、その負担金については、租税特別措置法六二条三項所定の交際費等に該当するものとして取り扱う旨を定めたものである。そして、両者の通達の関係をみるに、〈1〉が一般的な場合における日常的交際行為を対象とするのに対し、〈2〉が製造業者又は卸売業者と卸売業者が共同した特別の場合における特別の催物等の非日常的交際行為を対象とするという相違点が認められるものの、そのいずれの通達も、それが適用されるためには、交際行為を行う二以上の法人の間に右行為についての共同性が必要とされることはいうまでもない。

本件における争点は、原告が係争年度に支出し、広告宣伝費又は販売促進費勘定として経理処理した経費に含まれていた本件交際費について、その一部を当時原告と取引していた外国メーカーの交際費と認めることができるかどうかという点であり、右関係通達の解釈を踏まえると、結局、いかなる場合に二以上の法人が共同して交際行為を行い、その費用を分担支出したといえるかという問題に帰着する。そこで、右問題について、初めに、その基本的考え方を示す。

(一) まず、当該支出費用がいずれの法人にとっても交際費と評価されるものでなければならないから、第一に、支出の相手方がいずれの法人にとっても事業に関係のある者等であること、第二に、接待、供応等の交際行為がなされた時点において、いずれの法人も事業関係者等との間の親睦の度を密にして取引関係の円滑な進行を図ることも目的としていたこと、第三に、交際行為の受益者である相手方に明示されるなどして、その相手方において交際行為がいずれの法人をも含めたところでなされているものと認識し得るような客観的状況のもとになされたものであること、以上の要件が必要である。

(二) 次に、二以上の法人が交際行為を共同でしたと評価されるためには、社会通念上、共同してなされる対象である交際行為が特定され、この行為を共同して行うことをすべての法人の間で事前に合意することが必要である。したがって、交際行為の企画、立案、実施が、たとえある法人のみによりなされたとしても、他の法人がこの交際行為の内容を事前に了解し、右の実行法人とこれを共同して行う旨の意思の連絡が必要なことは当然である。もっとも、交際行為の内容の細部まで合意の際取り決められていなくても、又は合意と実施との間に僅かな細部の不一致があったとしても、直ちに共同性が否定されるものではなく、たとえば、交際行為の日時、場所に僅かな違いが認められたり、交際行為の実施日が特定されず、ある期間内に行う旨が合意されていたり、合意中において交際行為の相手方の氏名等が特定されていなくても、身分上あるいは資格要件で範囲が特定されているような場合は、それのみで共同性がないということはできない。結局、合意に係る交際行為と実施に係る交際行為とが重要な部分において一致し、その間の同一性が失われないものであれば(その判断は交際費の性格に照らしてなされる。)、共同性を認めることができるというべきである。したがって、ある法人に交際行為の企画、立案、実施を委ね、その法人が交際行為を実施する際にも、委託法人において、いかなる交際行為が実施されるものであるのかを事前に認識していないような場合にまで共同交際行為があったものと評価することはできない。

(三) 租税訴訟事件において、共同交際行為の有無を論じる意味は、当該被課税法人に帰属する交際費の額を認定して損金算入限度額の計算を行い、結局右法人の所得額を算出するためであるから、その効果との関係からみて、共同交際費の支出があったといえるためには、関係法人の間で予め分担額の定めがなされるか、あるいは少なくとも共同交際行為の合意の際分担額が確定していない場合は交際費の限度額及びその範囲内の支出金額に対する分担割合が定められている必要があることはいうまでもない。

以上のとおり、共同交際費の支出があったとされるためには、右(一)ないし(三)の要件をすべて充たしている必要がある。

2  本件における事実関係

(一) 原告の事業の実態及び販売活動について

(1) 原告は、本店を英国ロンドン・イー・シー・二区フィンスベリー・サーカス一八に置き、世界各国に支社、子会社、関連会社を有する貿易会社であり、日本においても、明治三一年一一月一一日に国内に営業所を設置して以来、八〇余年にわたり、輸出、輸入のほか、海運、トラベルサービス、事務機器販売、マーケティング・コンサルタントなどの多岐にわたる事業を行っており、事業年度は、毎年一月一日から同年一二月三一日までである。

原告の日本支社は、社員数約一三〇〇名で、東京のほか、横浜、名古屋、大阪、神戸、福岡に支店を設けており、各業界からの厚い信用や海外主要国を網羅するネットワーク及び多数の経験ある有能な社員によって、日本における外資系商社としては最大の規模と最も広範囲な業務内容を有するものであることを自負している。その輸入事業部門においては、外国の商品を輸入して販売する仕事全般、すなわち、広告、販売推進キャンペーン、販売網などを含む完璧なマーケティング・サービスを行っている。

(2) 原告の右事業活動のうち、消費財事業部では、外国メーカー各社から世界的に有名なウイスキー、ジン、ブランデー等の洋酒及び菓子類を外国メーカーの総代理店として輸入し、日本国内において原告の名でこれを独占的に販売していた。

(二) 原告と外国メーカーとの取引関係について

(1) 原告は、外国メーカーの日本における総代理店であるが、一般に代理店といわれるものは、特定のメーカー等との特約により、その系列下に入って一定地域内の独占的販売権などを与えられる代わりに製品の拡販などに積極的に協力する商業者をいう。代理店は、メーカー等から「代理」店という名称と販売権限を与えられているが、代理店とメーカー等との法律関係は売買であり、代理店は、その顧客に対して、自己の名で、かつ、自己の計算で売買を行う。また。代理店は、メーカー等との約定に従って、広告、販売促進活動等を行ってメーカー等の製品の拡販に協力する義務を負うことになる一方、メーカー等においても代理店の拡販活動を支援するために様々な種類の金銭的、物品的援助、すなわちリベートの提供をすることが一般的、かつ、通常の取引形態となっている。

(2) 原告と外国メーカーとの間の総代理店契約の内容を記載した書面は、僅かにグランツ社関係のみしか存在しないが、他の外国メーカーの場合も、基本的には原告とグランツ社間の総代理店契約の内容と大差がない。右契約の内容は、概略、次のとおりである。

〈1〉 原告は、外国メーカーからその製品を購入する。

〈2〉 原告は、右購入製品を日本国内で独占的に販売する権限を有する。

〈3〉 原告は、右製品と競合する他社の製品の販売代理店となってはならない。

〈4〉 原告は、外国メーカーの製品の販売促進に関し、常に最善の努力を払わなければならない。

〈5〉 宣伝広告予算は、事業年度ごとに作成されるものとし、協議により両社の支出額を決定する。ただし、両社の意見が相違する場合は、外国メーカーの支出分及び支払方法について外国メーカーがこれを決定する権利を有する。

(3) 外国メーカーは、日本国内において自社の販売活動に必要な恒久的施設や人員等を有せず、また販売のためのノウハウもなく、日本国内における販売量の維持、拡大は専ら原告の販売活動に依存している。

(4) 原告と外国メーカー四社との間の取引には、特殊事情が存在した。すなわち、日本には、過剰労働力が存在し、欧州共同市場、欧州自由貿易連合のような地域経済圏を持たない事情もあって、諸外国と比べて貿易の自由化が遅れていた。そのため、世界各国からの非難、国際通貨基金理事会からの勧告等を受けるに至り、政府も積極的に貿易の自由化のために努力してきた。そのなかにあって、洋酒類についても早くから自由化を迫られていたが、政府は、漸次自由化を行い、一九七一年(昭和四六年)ころ、ほぼ最終的にウイスキーとブランデーについて貿易の自由化を認めるに至った。その結果、新しい洋酒メーカーの国内進出、加えて国内のウイスキー業者の激しい販売攻勢により日本市場は激しい競争市場となり、このような日本国内市場の状況下において、外国メーカーは、その事態に対しどのように対処すべきか、その必要に迫られていた。これを反映して、原告が広告宣伝費として支出した額のうち、右四社から支払を受けた金額は、年々増加の一途(ただし、ゴードン社の昭和四九年分を除く。)にあった。

(三) 広告宣伝、販売促進費支出に関する企画・立案の状況について

(1) 原告と外国メーカーとの経費支出に関する企画・立案の状況は、ブキャナン社を例にとってみれば、次のとおりである。

〈1〉 右企画・立案は、予算書という形式で実施され、原告自らが作成していることが窺われる。また、右予算書のブキャナン社への提出は、ブキャナン社が原告に対して拠出することができる金員の総額が決定されてから後のことであり、しかも予算年度開始後しばらく経過してから送付されている。

〈2〉 右予算書及び提案の内容をみると、広告宣伝、販売促進活動の大綱(以下「活動項目」という。)ごとに予算額を提案していることは窺われるが、その額の計算根拠はほとんど示されておらず、ラウンドによる大まかなものであり、活動項目ごとに実施時期(期間)、実施場所(対象地区)、実施方法、支出予定先、支出予定時期等の具体的提案は全くなされていない。

〈3〉 右活動項目ごとの予算額についての実績をみれば、予算額を四倍以上も上回る支出や半分にも満たない支出がみられ、また、予算額にない項目について多額の支出が認められる。

(2) ゴードン社、マルタン社及びグランツ社についても、右ブキャナン社と同様の状況と認められる。

(四) 資金提供の決定状況等について

(1) 外国メーカーは、毎会計年度単位で、日本市場における当年度の売上目標額を中心に据えて、予めメーカー独自の判断により原告に拠出することができる金額を提示しており、また、その額の算定根拠は明確なものではなく、広告宣伝、販売促進活動のためという包括的なものである。そして、外国メーカーが当初支出を約束した拠出金額は、現実の活動内容及び支出に変動があっても基本的に変動することはなく、外国メーカーが年度途中に追加拠出する場合(例えば、昭和四九年ブキャナン社会計年度における三万ポンドの追加拠出)は例外であったが、逆に、外国メーカーが当初計画における拠出金額を一方的に削減してくることもあった(昭和五〇年グランツ社会計年度における四〇〇万円の削減)。また、外国メーカーの拠出金額は外貨建てによっており、原告に対する送金時の為替変動に伴う為替差損の手当ては全くなされていなかった。

(2) 一方、原告の拠出金額についても、ゴードン社及びグランツ社を除き、その算出根拠は明らかでないが、当該外国メーカー会計年度における売上目標数量を中心に据えて決定しているものとみられる。ゴードン社については、少額の基本資金額に加えて当年度における売上目標数量にスライドさせた金額を加えた額を拠出金額にしており、グランツ社については、昭和五〇年度分につき売上目標数量にスライドさせた金額により拠出金額を決定している。

(3) 各外国メーカー宛の予算書には、個々の活動項目別にメーカー及び原告双方の分担額が示されていない。

(五) 外国メーカーの送金及び精算状況について

(1) 外国メーカーからの原告に対する送金状況をみると、外国メーカーは、毎会計年度当初に独自の判断で決定し原告に約束した拠出金額を単に年二回あるいは年一〇回等に分割して原告に送金するだけであり、予算書におけるどの活動項目に対する送金かという特定は全くしていない。しかも、各会計年度末の精算を待つことなく右年度末の数か月前に全額を送金している。また、原告は、予算書(提案書)を外国メーカーに提出する以前に、既に外国メーカーから年間総額の五〇パーセント相当額を受領している事実もある。

(2) 次に、外国メーカーから送金された金員の精算状況をみると、まず、原告は、外国メーカーに対して、年一回計算書なるものを作成して、活動項目ごとに予算額に対する実行額の報告を行っているが、右実行額について活動項目ごとに双方の負担区分が明らかにされておらず、また、予算額を四倍以上も上回る支出や半分にも満たない支出がみられ、さらに、予算額にない項目について多額の支出が認められるにもかかわらず、それをどのように精算したかは全く明らかにされていない。しかも、実行総額が予算総額に満たない場合であっても、原告は、外国メーカーに何ら返還することなく、翌年度の原告負担額の予算に全部組入れており、また、実行総額が予算総額を超過した場合であっても、原告は、何ら外国メーカーに追加請求することなく、原告自らが超過額を全額支出している。

(六) 原告による分担額の計算について

原告は、被告が認定した原告の交際費の中に外国メーカー負担分が含まれていると主張し、その負担割合を、外国メーカーに係る広告宣伝、販売促進費の支出実績の合計額に対する外国メーカー支給額の合計額の割合で計算している。また、ブキャナン社、マルタン社及びゴードン社の事業年度が毎年四月一日から翌年三月三一日までであって、原告の事業年度との間に三か月のずれを生じていることから、外国メーカーの支給額(四月から翌年三月までの支給額)を月割額に直し、原告の事業年度に対応した月数を乗じて算出している。

(七) 原告の会計処理について

原告は、予算管理制度と称する会計処理により、広告宣伝、販売促進活動の大綱ごとに予算額を予め決定し、「借方」広告費、「貸方」広告費引当金と経理したうえ、支出の都度、右引当金を取り崩し、「借方」広告費引当金、「貸方」現金、預金としている。さらに、右支出について原告が立て替えたとする外国メーカーの広告費を総額で各外国メーカー勘定に振り替え、「借方」メーカー勘定、「貸方」広告費とし、各外国メーカーから送金があったときに、「借方」現金、預金、「貸方」メーカー勘定とする経理を行っている。

(八) 活動項目の実行状況等について

原告が支出した本件交際費の内訳は、原告が前記原告の反論において主張するとおり、別表二の1ないし15記載のとおりであり、活動項目の実行状況等は、類型的支出行為に関し、ほぼ次のような実態であったとみられる。

(1) バープロモーション

本件係争年度別、外国メーカー別に金額の多寡はあるものの、バープロモーションのために支出した費用の本件交際費中に占める割合は比較的高かった。

原告が末端開拓のための販売促進活動としてバー等の営業時間内にバー等に入場し、ある特定のブランドの外国メーカーの洋酒の宣伝を行うと同時に、そこのバーテンダーや店主と親睦を深めるために客として飲食を共にし、そのための料金を支出する行為としてバープロモーションを行ったことをすべて否定するわけではないが、それだけではなく、原告の特約店等事業に関係ある者等をバー等で接待、供応していた場合も少なからずあったのではないかとみられる。

(2) キャップサービス及び景品付販売等

キャップサービスは、バーやナイトクラブのバーテンダー及び経営者を対象とし、原告が決定したキャップ引換期間内に消費された本数に相当するキャップを集めてもらい、その個数に応じて原告が商品を提供するというものであり、主催者は原告である旨が明確に表示されている。

次に、景品付販売もキャップサービスと同様に原告が期間を区切り、その間に原告の取り扱う特定銘柄の洋酒一定数量を購入する者に対し、一定の景品又はプレミアムを付けていたものであるが、対象者がバーテンダーらではなく、原告の取引先の特約店等である点に違いがあった。この場合もパンフレットには原告が主催して企画実施する旨の明瞭な表示がなされていた。

(3) ゴルフコンペ

原告は、全国の五つの支店(札幌、仙台、名古屋、大阪、福岡)の存在する地区ごとに特約店を集めてゴルフコンペを主催した。その際、原告の当該地区の責任者が世話役として出席しただけでなく、原告がプレー代や賞品、カップを提供したが、原告と各外国メーカーとの共同開催の趣旨が当該ゴルフコンペの際に表示されていたとはいい難い。

(4) 特約店会議

原告は、主として外国メーカーの社長又は輸出担当重役等が来日した際、ホテルに特約店の社員を招待して親交を深めるため、会議又はパーティーを開き、そこでは飲食しただけでなく、いわゆるホステスチャージも行っていた。この会議又はパーティーは、原告が主催したものであって、外国メーカーの役員等が出席するのは、会議又はパーティーの効果を高める趣旨であるとみられる。

3  原告が外国メーカーから受領した金員の性質

前記1の交際費の帰属に関する基本的考え方を踏まえ、前記2の本件における事実関係を考察した結果は、次に述べるとおりであり、結局、本件交際費に係る交際行為は原告自身が行い、その費用も原告が支出しているもので、その一部を実質的に外国メーカーの拠出金によってはいるものの、その金員の性格は、原告が日本国内において実施する外国メーカーの商品の広告宣伝、販売促進活動のための援助金又は販売奨励金にほかならない。

(一) 分担額の定めの有無について

原告は、予算管理制度を採用し、日本における外国メーカーの商品の広告宣伝、販売促進活動のための費用について、外国メーカーの会計年度に合わせて当該事業年度の予算を策定するが、その予算金額には外国メーカーからの拠出予定金額も含まれている。そして、外国メーカーが会計年度開始前に原告に対する右拠出金額を決定するに当たっては、原告との話合いを経てはいるが、当該事業年度における日本国内での自社メーカー商品の販売目標数量に重点を置き、最終的には可能な範囲で自社の独自の判断と計算に基づき右金額を決定しているのであり、その金額は活動項目ごとの外国メーカー分担額の積上げという形をとらずに同項目と無関係に総額がまず決められ、実際の支出との関係で予算の過不足が生じても基本的に金額を変更することなく、また、原告との間で過不足金額についての精算は全くなされていない。のみならず、外国メーカーが会計年度初めに拠出予定金額を決定してから実際に原告宛に送金されるまでの間の為替の変動に対する手当てはなく、為替差損による予算超過額の負担を原告自身が負っている。

このような実態を踏まえてみれば、外国メーカーが販売促進の目的により、原告に対し、渡し切りによる費用の定額助成を行っていると認めざるを得ず、到底、原告と外国メーカーとの間に分担額の定めがあるということはできない。原告は、自社と事業年度にずれのある外国メーカー(ブキャナン社、ゴードン社及びマルタン社)について、その各年分の負担割合を算出するに当たり、月割額を基にして分担割合を算出しているが、原告が立替払いしたとする支出金と外国メーカーが支給する金員との間には個別的に何ら相互関連性がないゆえに、かかる方式をとらざるを得ないのであって(活動項目ごとに分担割合が決定されていれば、このような算出方法による必要は全くない。)、このことは、外国メーカーが支給する金員は、原告の営業活動に対する援助金であることを示すものにほかならない。なお、外国メーカーに分担金があるとするならば、原告の帳簿経理上においても、右分担金に係る部分については、預かり金又は立替金処理がなされて然るべきところ、原告は、これを行わず、簿記会計上の引当金勘定とは別の仮勘定の処理をしているにすぎないのであり、また、四六事業年度については、原告主張のごとく外国メーカーが負担する部分があるとするならば、繰延資産のうち一部は外国メーカーの資産に該当することになるにもかかわらず、前記のとおり、原告は繰延資産全額を原告の資産として認めており、外国メーカーに分担金があるという主張と自家撞着に陥っている。このことは、原告と外国メーカーとの間に個々の支出に当たって明確な分担という認識がないからにほかならず、それゆえ、原告に対する外国メーカーからの支給金は、広告宣伝、販売促進活動に当たっての費用の分担に基づく立替金の支払ではなく、原告の営業活動に対して援助金として支給されたものといえる。

(二) 交際行為についての意思の連絡

法人税法上の交際費の概念及び目的に照らせば、支出者において当該支出の相手方が自己の事業にどのように関係する者であるか(氏名までの認識は要しない。)の認識を必要とすることはいうまでもないが、それとともに、その者との親睦を深め取引関係を円滑にする必要性と効果があるかどうかを判断し得るに足りるだけの当該交際行為の内容(すなわち、支出効果に影響する交際行為の内容)についての認識が必要不可欠である。ところが、前記の事実関係をみれば、原告が計画し外国メーカーが承認した広告宣伝、販売促進活動の内容は、大綱にすぎないものであって(例えば、販売奨励金、バー販促費等)、活動項目ごとに実施時期(期間)、実施場所(対象地区)、実施方法、支出予定先、支出予定時期等の合意は全くなされていないのである。のみならず、原告の予算書の活動項目別の年間予算額と実際の年間支出額を対比してみると、前記の事実関係をみれば明らかなように、予算額を四倍以上も上回る支出や半分にも満たない支出がみられ、さらには予算額にない項目について多額の支出が認められることに照らせば、日本の実情に精通した原告の判断により自主的に外国メーカーの商品の広告宣伝、販売促進活動が企画、実施され、したがって、これに伴い本件交際行為が行われたといってよく、この交際行為について原告と外国メーカーとの間に意思の連絡があったとは到底いえない。

(三) 本件交際行為の相手方の認識状況

前記の事実関係によれば、原告が本件交際行為を行うに際して、その相手方に対し、外国メーカーと共催し、又はその協賛を受けて実施するものであるとの明示又は黙示の表示をしたことはなく、また、そのように客観的に受け取れる行動をしたものでもなく、原告が取り扱う外国メーカーの商品の販売促進の効果をも意図する以上、そのブランド名が、例えばキャップサービス等の景品付販売の場合はキャップが付せられる洋酒名の表示のため、あるいはゴルフコンペの場合は賞品やカップに原告販売商品名を推知させるため等の理由で明示されることはあるが、それをもって交際行為の相手方において当該行為が原告のみならず外国メーカーをも含めたところでなされているものと認識し得るような客観的状況が存在したということはできない。もっとも、特約店会議又はパーティの場合は、特定の外国メーカーの役員等がそこに出席して発言することがあり、また原告が行う外国メーカーの何周年記念かの祭りの場合は、その旨が表示されるが、それらは、その企画の効果を高めるものにすぎず、参加する特約店の社員にとっては原告がその主催者であり、原告の立案と実行によりその企画が実施されるものであるとの認識を抱くのが通常であって、右結論を何ら左右するものではない。

(四) 外国メーカーの資金提供の意図

(1) 原告と外国メーカーとの関係は総代理店契約に基づくものであり、これにより原告は、日本国内において当該外国メーカーの製品についての独占的販売権を与えられる代わりに、外国メーカーに対し、その製品の拡販などに積極的に協力すべき義務を負う。原告と外国メーカーは、全く別法人としてそれぞれが利益追求活動をしているのであり、原告と外国メーカー間の商品に関する法律関係は売買であり、原告は商品を自己の名で顧客に販売する。ただ、本件のようにメーカーが外国会社である場合には、日本国内のメーカー等と代理店契約を結ぶ場合とは自ずから差異があって、日本国内のメーカー等と代理店の場合には、代理店はメーカー等の系列下に入り、その指示により製品拡販に協力することになり、こうした意味では、代理店はメーカー等に対して従たる地位に立つ場合もあり得るが、外国メーカーが日本国内に販売組織を有する商社を代理店とするのは、外国メーカーは日本国内に支社や関連会社等の販売組織を持たず、日本の社会にもうといため、自社だけでは日本国内に製品を販売することが全く不可能であるから、原告のような日本国内に信用、組織、情報力を有する商社を利用するのである。しかも原告の場合は、特定のメーカーの製品だけを輸入、販売するのではなく、多数のメーカーの商品を扱い、広範囲な活動を行っている。そうだとすると、原告が外国メーカーの代理店になってその系列下に入るといっても、そのメーカーの商品の拡販活動をすることになるという以上の意味はなく、むしろ、右に述べたように外国メーカーが原告のような商社を利用せざるを得ない事情からいえば、原告の方にこそ外国メーカーに対して主たる地位があるといってもよい。

(2) 原告は独立した法人であって、外国メーカーと総代理店契約を結んでその商品を日本国内で販売することにより利益を上げているのであって、外国メーカーに代理して活動しているものではないし、外国メーカーの指示に従って活動しているものでもない。原告が外国メーカーの商品の販売促進活動を行ったとしても、それは代理店として営業活動を行っている原告自身の利益のためにほかならない。原告が外国メーカーから金員の提供を受け、その金員の使途について外国メーカーから交際行為のためと定められていても、右のような金員の提供は、外国メーカーと原告のような代理店の間では通常行われるものであり、代理店契約の一環としてなされているにすぎない。すなわち、金員の提供は、外国メーカーが代理店に委ねている商品販売を代理店において促進されるように援助し、その結果、代理店契約の効果を高める趣旨で支払われたものであって、外国メーカーが直接販売活動を行おうとするものではない。また、原告が提供を受けた金員を定められたとおり交際行為に使用したところで、所詮、原告自身の営業に使用されたのであり、その交際行為はあくまで原告自身のものである。本件交際行為は、代理店としての原告の日常的販売促進行為に伴うものであって、このような日常的販売促進行為を外国メーカーと共同して行うということは通常考えられないことである。メーカーと販売店との共同行為は、特別の催物等の非日常的行為を意味する。本件交際行為は原告の日常的販売促進行為であるから、外国メーカーからの当該費用の提供がなくなったからといって、その交際行為を原告が直ちに中止できるものでもないのであって、このことからみても、右交際行為が原告自身の販売促進行為であって、外国メーカーとの共同行為でないことは明らかである。外国メーカーとしては、代理店の販売が促進され代理店契約締結のメリットが享受できればそれでよいのであり、それ以上に外国メーカー自身が原告の取引先と親睦を深めようとする意図も必要もない。したがって、外国メーカーが原告から予算書や計算書の送付を受けるのも、自ら原告に提供する資金が自社の製品の拡販活動のために有効利用されるものであるかどうか及び結果としてそのような支出のされ方をしているかどうかを検討、確認するためにすぎないのであり、原告との共同交際行為のためにかかる手続がとられているわけではない。

以上(一)ないし(四)の点を総合考察すれば、本件の場合、共同交際費支出の要件を欠いているというべきであり、したがって、原告と共同して外国メーカーが負担する交際費の支出があった事実はない。

六  被告の再主張に対する認否及び反論

1  被告の再主張1について

被告の主張は争う。交際費なる概念は、元来、会計学上のものではなく、政策目的に基づく税法上の概念であり、企業としては、広告宣伝、販売促進、会議、視察その他必要なる企業活動を行うための経費と考えられるものである。そして、そのうち遊興、飲食的なものについてのみ、一定の政策目的から税法上、交際費と認定し、所得の計算上、損金算入の限度額を設けているというにすぎない。したがって、複数法人が経費分担約束の下で共同して企業活動を行う場合を考察するについては、その企業の活動自体に視点を据えて考えるべきであって、交際行為のみを切り離して種々検討することは、企業活動の実態から離れた机上の空論となってしまう危険性が強い。ある企業活動の項目につき、費用分担の約束があり、分担額を受け入れたとして、その中に交際費に該当する支出が含まれていた場合、費用分担額に応じて各支出法人が交際費の限度額計算をすることで十分なのであって、被告の主張するごとく、一々、交際費該当支出行為につき、支出の意図、相手方の認識の度合、内容を特定して事前に合意するといった要件設定の必要性は、交際費課税の趣旨からもその他どこからも出て来ない。この種の問題は、複数法人が日本の企業どうしである場合、極めて単純に処理、解決されている。「共同性」なるものがあるか否かなどということは全くといっていいほど詮議されず、単に、いずれの法人がいくらを負担したかということのみで、負担額どおりに各法人の交際費と認め、限度額計算が行われているのが課税実務なのである。結局、複数法人が共同で支出する交際費については、〈1〉双方にとって経費たる性格を有する支出であること、〈2〉双方の分担額又は分担割合が合意されていること、〈3〉租税回避等の不当な目的が存しないことの各要件があれば、その合意された分担額又は分担割合に応じて交際費課税の関係を律するということで十分である。

2  被告の再主張2について

(一) (一)及び(二)は認める。

(二) (三)について

確かに予算額の根拠や活動項目ごとの実施時期等の詳細は、文書自体からは知り得ないが、毎年継続して同種のことを行っており、外国メーカーは前年度の詳細な会計報告から企画の内容を十分知り得るのみならず、その他文書、会議等により詳細を把握している。いつ、どの問屋に支払われるか、バーテンダーがいつキャップを持参するかなどは、日時、場所等で予め特定することになじまないし、また、逐一その時点で個別的に合意しなくても、予め、このような使途で双方の分担金が使用されるとの合意があれば、それで十分である。なお、原告と外国メーカーの了解は、何も予算書のみで行われるわけではなく、景品の種類その他の事項についてメーカーからの提案もあるし、細目につき、実施途上において、外国メーカーと随時、協議している。また、被告は予算と実行額に差異がある点を協調するが、予算はあくまでも予測であって、実績と異なるのはむしろ当然である。予算といっても国家予算とは大いに異なる。営利を目的とした事業である以上、また市況は刻々と変化するのであるから、有効な手段を求めて機敏に変更することが必要ですらある。ただし、細部を除き、大きな変更については外国メーカーの了解は得ており問題はない。

(三) (四)について

販売数量を基にして負担額を決めることは、商取引として十分に合理性があり、異例のことではない。

(四) (五)について

被告は、外国メーカーからの送金と活動項目との結びつきを問題にするが、項目が多数で期間が長い場合は、まとめた形で送金するのが当然であって、それで構わない。また、送金をどの段階で行おうと自由である。予算書送付前に外国メーカーから分担金の受領をする場合もあるが、これは、原告と外国メーカーとの取引は長年にわたっており、通常、当該年度においても、新たな項目や細目は別にして、前年度と同様の活動を行うことが予定されており、負担額が決まった段階でその一部を送金してくることがあり得るのは当然であって、だからどうということはない。項目や細目は順次合意され実施されていくのである。また、予算額と実行額に違いがあるのは、生きた商売である以上、当然だし必要である。新たな項目については、外国メーカーの了解を得ている。さらに、精算が不明であるというが、精算は明らかであり、翌期に繰り越すことも外国メーカーの了解のうえで行ったことである。

(五) (六)及び(七)は認める。

(六) (八)について

本件交際費の内訳が別表二の1ないし15記載のとおりであることは認めるが、本件において、支出行為の内容は、その交際費該当性を原告が認めているから、問題となる余地はないと考えられる。

3  被告の再主張3について

(一) 冒頭の外国メーカーの拠出金の性格は、援助金又は販売奨励金であるとの主張は争う。

(二) (一)について

まず、分担額は、項目ごとの積上げ方式でいこうが、双方が拠出しあえる金額を合意し、これを有効に配分する方式をとろうが、全く問題はない。また、被告は過不足が生じた場合は分担割合により帰属させて精算すべきであるというが、外国メーカーの分担は、割合ではなく定額で約束されており、力関係や協議により、右のような理想形では精算されていない。ただ、本件のような精算方法であっても、結果として当該年度における負担額、したがって、負担割合が計算上変わってくるだけのことで、事の本質には関係しない。渡し切りによる定額援助ではなく、分担額の受入れであることは、外国メーカーとの事前合意、事後報告、会計処理等により明らかである。会計年度の差異による修正計算について述べると、重要なことは、当該支出につき費用分担の合意があったかどうかということであって、これが被告のいうような個別、細目的な負担区分の合意から出発したものであれ、本件のごとく総括的、項目的な分担合意から出発して、個別、細目的支出割合を計算するものであれ、事の本質には差異がない。また、原告の帳簿経理上、外国メーカー負担分と原告負担分の区別は極めて明瞭であって、この点に関する被告の主張は誤りである。さらに、繰延資産の問題も、金額が僅少であること等の理由で、わざわざ各年度の所得金額を計算し直すという煩瑣を避けるために本件で問題にしなかったのであり、自家撞着に陥っているわけではない。結論的には、原告と外国メーカーとの間には、分担額の取決めがあり、原告は外国メーカーの分担額を全額受け入れているということである。

(三) (二)について

前記のとおり、かかる要件は必要ではない。

(四) (三)について

かかる要件を設定することは不当である。交際費の支出態様には様々なものがあり、被接待者が特に接待されているという認識を生じ得ないバープロモーションのごときものもあるのであるから、一般的な基準として、被接待者の認識を要件とすることは著しく危険で誤りである。また、被接待者の接待されたという認識は、具体的な接待者の行為がどの程度その効用を果たしたかという効果の側面であるにすぎない。さらに、被接待者の意識により誰が支出した交際費か決定されるとしたら、被接待者の認識や善意、悪意で、支出者が異なってしまい、税務法律関係の安定性、確実性を著しく阻害する結果となる。

(五) (四)について

原告が輸入商品の国内での販売を固有の業務としているからといって、外国メーカーと共同で広告宣伝、販売促進活動を行えないわけではなく、これを否定される理由も見当たらない。また、被告は、メーカーと総代理店との一般的関係を考察し、両社の独自な立場を強調しているが、さほど意味のある主張とは思えない。ブランド商品の場合、商品の知名度を高めるための活動は、メーカー、代理店、問屋などにとって共通のメリットがあることは明らかである。

第三  証拠〈省略〉

理由

一  請求原因1(処分等の経緯)の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件更正及び本件決定が適法であるかどうかについて検討する。

1  被告の主張1(四六事業年度に係る処分の適法性)について、(一)(法人税に係る更正について)のうち、(1)(原告の申告に係る所得金額)、(2)の〈1〉(減価償却超過額)、〈2〉(棚卸商品の評価減否認額)、〈3〉(取扱手数料収入計上漏れ)、〈4〉(受取手数料計上漏れ)、〈5〉(棚卸商品計上漏れ)、〈6〉(仕掛商品の評価減否認)、〈7〉(旅費交通費中否認)、〈8〉(リベート収入の計上漏れ)、〈9〉(申告調整の誤りによる加算額)、〈10〉(受取配当等益金不算入額の計算誤り)、〈11〉(退職給与引当金損金算入限度超過額)、〈12〉(交際費の損金不算入額)のア及びイ、ウのうち、広告宣伝費中、五一七万八九二七円が原告の交際費であること、〈13〉(繰延資産の償却限度超過額)、(3)の〈1〉(未納事業税認定損)及び〈2〉(国内源泉所得に含まれない所得金額)、被告の主張2(四七事業年度に係る処分の適法性)について、(一)(法人税に係る更正について)のうち、(1)(原告の申告に係る所得金額)、(2)の〈1〉(事業税認定損戻入不足額)、〈2〉(事業税認定損過大計上否認額)、〈3〉(減価償却資産の償却限度超過額)、〈4〉(交際費の損金不算入額)のア及びイ、ウのうち、広告宣伝費中、五四二万六六三九円が原告の交際費であること、(3)の〈1〉(減価償却超過額の認容額)及び〈2〉(繰延資産償却超過額の認容額)、被告の主張3(四八事業年度に係る処分の適法性)について、(一)(法人税に係る更正について)の(1)(原告の申請に係る所得金額)、(2)の〈1〉(繰延資産償却超過額)、〈2〉(控除所得税の損金不算入不足額)、〈3〉(交際費の損金不算入額)のア及びイ、ウのうち、広告宣伝費中、六二八万一五三五円が原告の交際費であること、(3)の〈1〉(事業税認定損戻入過大額)、〈2〉(事業税認定損)、〈3〉(減価償却超過額の認容額)、〈4〉(繰延資産償却超過額の認容額)、被告の主張4(四九事業年度に係る処分の適法性)について、(一)(法人税に係る更正について)の(1)(原告の申告に係る所得金額)、(2)の〈1〉(減価償却超過額の計算誤り)、〈2〉(工事収入計上漏れの額)、〈3〉(工事原価過大計上否認額)、〈4〉(工事仕掛品加算額)、〈5〉(前払経費否認額)、〈6〉(保証金加算額)、〈7〉(棚卸商品計上漏れ)、〈8〉(繰延資産償却超過額)、〈9〉(受取配当益金不算入過大計上額)、〈10〉(雑収入計上漏れ)、〈11〉(価格変動準備金の繰入超過否認額)、〈12〉(交際費の損金不算入額)のアないしウ、エの(ア)、(イ)のうち、二四四一万九四七〇円中、九〇〇万九三一八円が原告の交際費であること、オ、(3)の〈1〉(減価償却超過額の認容額)、〈2〉(減価償却超過額の計算誤り)、〈3〉(未収手数料過大加算額)、〈4〉(工事原価認容額)、〈5〉(繰延資産償却超過額の認容額)、〈6〉(事業税認定損戻入額の過大計上額)並びに〈7〉(事業税認定損)、被告の主張5(五一事業年度に係る処分の適法性)について、(一)(法人税に係る更正について)の(1)(原告の申告に係る所得金額)、(2)の〈1〉(交際費等の損金不算入額)のア、イ及びウのうち、八五七万七〇六二円中、四万一三九一円が原告の交際費であること、以上の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

2  そうすると、被告が原告の交際費であることを否認する広告宣伝費の部分、すなわち、四六事業年度につき、九〇七万五四二二円(原告は、そのうち、三五六万一四一二円はブキャナン社、四二九万二八九三円はゴードン社、一二二万一一一七円はマルタン社のそれぞれの交際費であると反論する。)、四七事業年度につき、七〇一万三八八一円(原告は、そのうち、三〇四万四八〇二円はブキャナン社、一八七万四七五一円はゴードン社、二〇九万四三二八円はマルタン社のそれぞれの交際費であると反論する。)、四八事業年度につき、一四六九万一六六〇円(原告は、そのうち、四五一万八九七二円はブキャナン社、三〇〇万四二八三円はゴードン社、七一六万八四〇五円はマルタン社のそれぞれの交際費であると反論する。)、四九事業年度につき、一五四一万〇一五二円(原告は、そのうち、四二八万二八七三円はブキャナン社、三二四万六〇三八円はゴードン社、七八八万一二四一円はマルタン社のそれぞれの交際費であると反論する。)、五一事業年度につき、八五三万五六七一円(原告は、そのうち、三一万三六八五円はゴードン社、七一三万三四九八円はマルタン社、一〇八万八四八九円はグランツ社のそれぞれの交際費であると反論する。)が原告の交際費であるかどうかが争点である。そして、原告は、原告と外国メーカーは共同して本件交際行為を含む広告宣伝、販売促進活動を行ったのであるから、支出された費用のうち、外国メーカーが費用負担の合意に基づいて負担した部分は、その外国メーカーの交際費というべきであって、原告の交際費ではないと反論する(その金額等の詳細は、別表三及び四記載のとおりである。)。したがって、まず、原告と外国メーカーが共同して本件交際行為を行ったという主張について検討する。

(一)  租税特別措置法六二条三項は、「交際費等とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するもの(専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用その他政令で定める費用を除く。)をいう。」と規定しているから、交際費は、法人がその得意先等に対してした接待等の交際行為のために支出された金員をいうものと解される。そして、同法には、二以上の法人が共同して接待等の交際行為を行った場合に関する規定はないが、二以上の法人が共同して交際行為を行いその費用を分担して支出した場合でも、それぞれの法人が自ら交際行為を行い、そのため費用を支出したものと評価することができるのであれば、その費用は、それぞれの法人の交際費であると解して差し支えないものというべきである。租税特別措置法通達六二(一)-一八が、「法人の支出する交際費等は、当該法人が直接支出した交際費等であると間接支出した交際費等であるとを問わない」としたうえ、「(1) 2以上の法人が共同して接待、きょう応、慰安、贈答その他これらに類する行為をして、その費用を分担した場合においても、交際費等の支出があったものとする。」と定めているのも、右の理を表現したものと理解することができる。ところで、二以上の法人が共同して交際行為を行ったということができるためには、原則として、二以上の法人が特定の交際行為を共同して行う意思のもとに、各法人が交際行為の一部を分担する必要があるものというべきである。すなわち、特定の交際行為を共同して行うという意思の連絡があって初めて全体の分担が可能になるものであるから、共同の意思という主観的要件が必要であり、また、交際行為の一部を分担することによって初めて自ら交際行為を行ったと評価することができるものであるから、交際行為の一部分担という客観的要件が必要となるといわなければならない。もっとも、右の客観的要件である交際行為の一部分担については、たとえ交際行為の一部を直接分担しなかった法人であっても、直接交際行為を担当した法人との間において事前に交際行為について十分な協議を遂げ、交際行為を担当した法人に対して主導的役割を果したなど、価値的にみて自ら交際行為の一部を分担したものと評価することができる場合には、当該交際行為を分担しなかった法人は直接交際行為を担当した法人と共同して交際行為を行ったものと認めることができるというべきである。したがって、ある法人が他の法人に交際行為の企画・立案・実施のすべてを委ね、しかも、事前にいかなる交際行為が実施されるのか認識すらしていないような場合には、当該法人は他の法人と共同して交際行為を行ったと評価することはできないものといわなければならない。

この点について、原告は、租税特別措置法通達六二(一)-一八は、「(2) 同業者の団体等が接待、きょう応、慰安、贈答その他これらに類する行為をしてその費用を法人が負担した場合においても、交際費等の支出があったものとする。」と定め、また、右通達六二(一)-一二は、「次のような費用は、原則として、交際費等の金額に含まれるものとする。」とし、「(5) 製造業者又は卸売業者がその製品又は商品の卸売業者に対し、当該卸売業者が小売業者等を旅行、観劇等に招待する費用の全部又は一部を負担した場合のその負担額」と定めているが、これらは、企画を共同で立てたか否か、行為を共同で行ったか否かなどといった点を何ら問題にすることなく、当該交際費等の実質的負担者である分担約束をした法人の交際費となることを認めているものであり、このことは、租税法律主義、租税民主主義、実質課税主義等の要請から当然のことであると主張する。

しかしながら、まず、右通達六二(一)-一八(2)は、同業者の団体等はその団体等を組織しているそれぞれの法人のためにそれぞれの法人を代表して接待等の交際行為をするものであるから、その費用を負担した当該法人自体が直接接待等の交際行為をする場合と同視して差し支えないとしているものと解される。もっとも、同業者の団体等が個々の構成員の個別的利益と直ちには結びつかない交際行為を行うこともないではないが、同業者が団体等を組織しているものである以上、同業者の団体等の固有の利益といったものを観念することはできず、個々の構成員の個別的利益と直ちには結びつかない交際行為であっても、そこから得られる利益は、結局は、個々の構成員である同業者の利益に還元することができるものというべきであるから、当該同業者の団体等の交際費等の支出は、これを組織している各法人の交際費等の支出と同視して差し支えないものと解される。

また、右通達六二(一)-一二(5)も、その対象となる交際行為は、特定の「旅行」や「観劇」等であって、あらかじめ定められた日程どおりに実施され、大きな変更が予想されない定型的な行為であるから、このような行為については、交際行為を担当しない製造業者等と交際行為を担当する卸売業者が事前にその実施方法、実施した場合に要する金額等につき十分に協議し、かつ、交際行為を担当していない製造業者等がその旅行等に協賛又は共催していることを前提に(通達の明文上は定められていないが、交際費について規定する租税特別措置法六二条三項の規定の趣旨からすると、当然にこのような条件が前提とされているものというべく、この前提が満たされていない場合には、交際費と認めることはできないものと解すべきである。)、交際費と認められることを明らかにしたものと解するのが相当である。

以上によれば、本件通達六二(一)-一八(2)は、同業者団体とそれを組織している法人という特殊な関係について定めたものであり、また、本件通達六二(一)-一二(5)は、事前に十分な協議のある定型的な交際行為について定めたものであって、前記のとおり、二以上の法人が共同して交際行為を行ったというためには、原則として、二以上の法人が特定の交際行為を共同して行う意思のもとに、各法人が交際行為の一部を分担する必要があると解した上、交際行為の一部を分担しなかった法人が、交際行為を担当した法人との間で事前に交際行為につき十分な協議を遂げ、直接交際行為を担当した法人に対して主導的役割を果したなど、価値的にみて、自ら交際行為の一部を分担したと評価することができる場合においてのみ、二以上の法人が共同して交際行為を行ったものと解することの妨げとなるものではないというべきである。原告の主張は、採用することができない。

(二)  そこで、本件における事実関係を検討し、これに基づいて、外国メーカーが原告と共同して本件交際行為を行ったかどうかについて判断する。

(1) 原告の事業の実態及び販売活動につき、次の事実は、当事者間に争いがない。

〈1〉 原告は、本店を英国ロンドン・イー・シー・二区フィンスベリー・サーカス一八に置き、世界各国に支社、子会社、関連会社を有する貿易会社であり、日本においても、明治三一年一一月一一日に国内に営業所を設置して以来、八〇余年にわたり、輸出、輸入のほか、海運、トラベルサービス、事務機械販売、マーケティング・コンサルタントなどの多岐にわたる事業を行っており、事業年度は、毎年一月一日から同年一二月三一日までである。

〈2〉 原告の日本支社は、社員数一三〇〇名で、東京のほか、横浜、名古屋、大阪、神戸、福岡に支店を設けており、各業界からの厚い信用や海外主要国を網羅するネットワーク及び多数の経験ある有能な社員によって、日本における外資系商社としては最大の規模と最も広範囲な業務内容を有するものであることを自負している。その輸入事業部門においては、外国の商品を輸入して販売する仕事全般、すなわち、広告、販売促進キャンペーン、販売網などを含む完璧なマーケティング・サービスを行っている。

〈3〉 原告の右事業活動のうち、消費財事業部では、外国メーカー各社から世界的に有名なウイスキー、ジン、ブランデー等の洋酒及び菓子類を外国メーカーの総代理店として輸入し、日本国内において原告の名でこれを独占的に販売していた。

(2) 原告と外国メーカーとの取引関係につき、次の事実は、当事者間に争いがない。

〈1〉 原告は、外国メーカーの日本における総代理店であるが、一般に代理店といわれるものは、特定のメーカー等との特約により、その系列下に入って一定地域内の独占的販売権などを与えられる代わりに製品の拡販などに積極的に協力する商業者をいう。代理店は、メーカー等から「代理」店という名称と販売権限を与えられているが、代理店とメーカー等との法律関係は売買であり、代理店は、その顧客に対して、自己の名で、かつ、自己の計算で売買を行う。また、代理店は、メーカー等との約定に従って、広告、販売促進活動等を行ってメーカー等の製品の拡販に協力する業務を負うことになる一方、メーカー等においても代理店の拡販活動を支援するために様々な種類の金銭的、物品的援助、すなわちリベートの提供をすることが一般的、かつ、通常の取引形態となっている。

〈2〉 原告と外国メーカーとの間の総代理店契約の内容を記載した書面は、僅かにグランツ社関係のみしか存在しないが、他の外国メーカーの場合も、基本的には原告とグランツ社間の総代理店契約の内容と大差がない。右契約の内容は、概略、次のとおりである。

ア 原告は、外国メーカーからその製品を購入する。

イ 原告は、右購入製品を日本国内で独占的に販売する権限を有する。

ウ 原告は、右製品と競合する他社の製品の販売代理店となってはならない。

エ 原告は、外国メーカーの製品の販売促進に関し、常に最善の努力を払わなければならない。

オ 宣伝広告予算は、事業年度ごとに作成されるものとし、協議により両社の支出額を決定する。ただし、両者の意見が相違する場合は、外国メーカーの支出分及び支払い方法について外国メーカーがこれを決定する権利を有する。

〈3〉 外国メーカーは、日本国内において自社の販売活動に必要な恒久的施設や人員等を有せず、また販売のためのノウハウもなく、日本国内における販売量の維持、拡大は専ら原告の販売活動に依存している。

〈4〉 原告と外国メーカー四社間の取引には、特殊事情が存在した。すなわち、日本は、過剰労働力が存在し、欧州共同市場、欧州自由貿易連合のような地域経済圏を持たない事情もあって、諸外国と比べて貿易の自由化が遅れていた。そのため、世界各国からの非難、国際通過基金理事会からの勧告等を受けるに至り、政府も積極的に貿易の自由化のために努力してきた。そのなかにあって、洋酒類についても早くから自由化を迫られていたが、政府は、漸次自由化を行い、一九七一年(昭和四六年)ころ、ほぼ最終的にウイスキーとブランデーについて貿易の自由化を認めるに至った。その結果、新しい洋酒メーカーの国内進出、加えて国内のウイスキー業者の激しい販売攻勢により日本市場は激しい競争市場となり、このような日本国内市場の状況下において、外国メーカーは、その事態に対しどのように対処すべきか、その対応に迫られていた。これを反映して、原告が広告宣伝費として支出した額のうち、右四社から支払を受けた金額は、年々増加の一途(ただし、ゴードン社の昭和四九年分を除く。)にあった。

(3) 本件交際行為の内容につき、まず、その内容が別表二の1ないし15記載のとおりであり、交際行為に該当するものであることは、当事者間に争いがない。なお、その内容で右別表の記載だけでは説明が不十分と思われるものについて見ると、〈証拠〉によれば、バープロモーション又はバー販売促進とは、バー等に客として行き、特定の洋酒の販売促進のため、当該洋酒を注文して飲みながら、これを宣伝し、また、バーテンダーやバーの経営者等と親睦を深めるという活動であったこと、キャップサービスとは、バー等のバーテンダーや経営者を対象とし、一定期間に集めたキャップの個数に応じて賞品を提供するという販売促進活動であったこと、景品付販売とは、一定期間に一定数量の洋酒を購入する消費者、特約店等に対し景品やプレミアムを付するという形態の販売であったこと、ゴルフコンペは、全国五つの地区ごとに特約店を集めて行われたもの等であったこと、特約店会議の多くは、外国メーカーから役員等が来日した際に特約店を招待して開催したパーティであったことが認められる。

(4) 次に、各外国メーカーと原告との間の本件交際行為に関する企画・立案、実行、精算等の事実経過につき、外国メーカーごとに検討し、そのうえで、前記(1)ないし(3)の各事実を加えて、当該外国メーカーが原告と共同して本件交際行為を行ったかどうかについて判断する。

〈1〉 ブキャナン社と原告との間の具体的事実関係につき、〈証拠〉によれば、次の事実が認められる(以下、ブキャナン社の事業年度ごとに見ていくことにする。)。

ア 昭和四六年四月一日から昭和四七年三月三一日までの事業年度について

昭和四六年一月一四日以前において、原告の担当者がロンドンに赴き、ブキャナン社に対し、市場調査の結果及び昭和四六年における広告企画を提案し、これに対し、ブキャナン社は、同日付け原告宛て書簡で、特別広告費用から日本向けに約三万五〇〇〇ポンドを拠出する予定であること及び三月上旬ころ担当者が来日して原告の広告宣伝、販売促進活動の企画について討論したい旨を原告に伝えた。続いて、ブキャナン社は、原告に対し、同年二月一九日付け書簡で、当事業年度における日本でのブキャナン社の製品の広告宣伝、販売促進活動の費用として三万五〇〇〇ポンドを支出することができる旨を通知し、当該広告宣伝、販売促進活動の企画、提案を求め、その後、右三万五〇〇〇ポンド全額を原告に送金した。原告は、ブキャナン社の商品に関する広告宣伝、販売促進活動を実施した後、ブキャナン社に対し、昭和四七年八月二五日付け書簡で、その結果を報告し、支出に関する総括計算書及び明細書を同封して送付した(なお、活動項目別の予算額と実行額の対比は、別表五の1記載のとおりである。)。その報告内容は、予算額の未使用残高が七三万九一七二円あったが、ブキャナン社負担額の為替差損相当額を減額した結果、二万四三〇三円の支出超過となり、右支出超過は原告が負担すると決定したこと、昭和四六年の日本におけるスコッチウイスキー市場は輸入自由化により混乱したため、同年一〇月に当初企画を再検討し、その一部を変更したこと、支出に関する証拠書類等は別便で送付すること等であった。

イ 昭和四七年四月一日から昭和四八年三月三一日までの事業年度について

ブキャナン社は、原告に対し、昭和四六年一二月二二日付け書簡で、当事業年度における日本での広告宣伝活動に対し三万五〇〇〇ポンドを拠出する旨を伝え、さらに、昭和四七年四月二六日付け書簡で、右拠出額を確認したうえ、広告費の予定表を添付した企画書の送付を求め、続いて、昭和四七年五月二日、右負担額の半額である一万七五〇〇ポンドを原告に送付した。原告は、ブキャナン社に対し、昭和四七年七月一七日付けでブキャナン社の商品の広告宣伝、販売促進活動に関する総予算四〇〇〇万円の提案をし、その予算書を同封して送付した。その内容は、総予算と原告の提案する広告宣伝、販売促進活動の項目から成り、右活動項目ごとの予算(例えば、バーテンダー報奨費一〇〇万円)及び内容に関する若干の説明(例えば、バーテンダー報奨費について、これは、あきビンのキャップ一個につき約三〇円の割合でバーテンダーにキャップ・リベートとして支払うものである旨の説明)であるが、その詳細は記載されていない。ブキャナン社は、同年一一月二四日、その負担額のうち一万七四八〇ポンドを、同年一二月二一日の残額二〇ポンドをそれぞれ原告に送金した。原告は、ブキャナン社の商品に関する広告宣伝、販売促進活動を実施した後、ブキャナン社に対し、昭和四八年六月一日付け書簡で、その報告をし、支出に関する総括計算書を同封して送付し、明細書の送付を省略して証拠書類も原告で保管することにしたいと申し入れたが、ブキャナン社が会計監査の目的で証拠書類を必要とすると原告に要請したため、原告は、ブキャナン社に対し、同年七月二〇日付け書簡で、その要請を了解した旨及び別便で証拠書類を送付する旨を通知し、明細書を同封して送付した。なお、未使用残高七〇二万九二七二円は、すべて翌事業年度の原告負担分に繰り越された。

ウ 昭和四八年四月一日から昭和四九年三月三一日までの事業年度について

原告は、ブキャナン社に対し、昭和四八年三月三〇日付け書簡で、販売促進案を送付した。ブキャナン社は、同年三月六日から同年一〇月三一日まで一〇回に分割して負担額六万一七五四・九七ポンドを原告に送金した。原告は、ブキャナン社の商品に関する広告宣伝、販売促進活動を実施した後、ブキャナン社に対し、昭和四九年七月三〇日付け書簡で、その結果を報告し、支出に関する総括計算書及び明細書を同封して送付した。なお、未使用残高一四三万一六二二円は、すべて翌事業年度の原告負担分に繰り越された。

エ 昭和四九年四月一日から昭和五〇年三月三一日までの事業年度について

ブキャナン社は、原告に対し、昭和四九年七月二四日付け書簡で、日本向け広告費として九万ポンドを拠出する用意があることを伝え、そのうち、四万五〇〇〇ポンドを原告に送金した。原告は、ブキャナン社の商品に関する広告宣伝、販売促進活動を実施した後、ブキャナン社に対し、昭和五〇年六月二四日付け書簡で、その結果を報告し、双方の負担割合に応じて実際に支出した費用一億四四三六万九〇二七円を配分し、ブキャナン社の負担額を五五八七万〇八一三円、原告の負担額を八八四九万八二一四円と算出したうえ、ブキャナン社負担額の未払い分が二四一九万九八一三円である旨を通知してその送金を求め、支出計算書を同封して送付した。なお、ブキャナン社は、原告に対し、総代理店契約を解約する旨の意思表示をし、昭和五〇年一月一日以降、ブキャナン社と原告間の総代理店契約は終了した。

以上の事実に前記(1)ないし(3)の事実を併せて判断すれば、本件交際行為は、広告宣伝、販売促進活動の一部であり、ブキャナン社は本件交際行為を直接分担していなかったものであるところ、ブキャナン社が原告に対して事前に交際行為の内容等に関する指示や原告の企画・立案に対する指示を与えていたとはいい難く、とりわけ、ブキャナン社がその負担額を決定した後に原告が本件交際行為を企画・立案して実行していること、その項目別の実行額は予算額に対応していなかったこと、その企画・立案につき、ブキャナン社が原告に対して変更・修正等を求めた形跡は窺われないこと、交際行為の終了及び計算書の送付前においてブキャナン社がその負担額全額を原告に送金し、超過額があれば原告がすべて負担し、残余額があれば翌事業年度の原告の負担額に充て精算は特に行われなかったことなどの事情に鑑みると、ブキャナン社が事前に原告と本件交際行為について十分な協議を遂げ、直接交際行為を担当した原告に対して主導的役割を果たしたと認めることはできず、そのほかブキャナン社につき本件交際行為を一部分担したと評価することのできる事情を見出すことはできないといわなければならない。したがって、ブキャナン社と原告が共同して本件交際行為をしたものと認めることはできない。

〈2〉 ゴードン社と原告との間の本件交際行為に係る具体的事実関係につき、〈証拠〉によれば、次の事実が認められる(以下、ゴードン社の事業年度ごとに見ていくことにする。)。

ア 昭和四六年四月一日から昭和四七年三月三一日までの事業年度について

ゴードン社は、その商品の日本における広告宣伝費の自己分担分を二万一〇〇〇ポンドとし、昭和四六年四月三〇日、そのうち一万二五〇〇ポンドを原告に送金した。原告は、ゴードン社に対し、同年六月二五日付け書簡で、当期におけるゴードン社の商品に関する広告宣伝、販売促進活動の提案書を送付した。これに対し、ゴードン社は、同年七月一四日付け書簡で、予算の五〇パーセントをバープロモーションに当てたことに賛成する等の意見を原告に述べ、同年九月三〇日、その負担分の残額八五〇〇ポンドを原告に送金した。また、国際バーテンダー協会総会費用として六〇万円を追加して送金した。原告は、ゴードン社の商品に関する広告宣伝、販売促進活動を実施した後、ゴードン社に対し、昭和四七年七月二八日付け書簡で、その報告をし、総括計算書及び明細書(活動項目別の予算額と実行額の対比は、別表五の2記載のとおりである。)を同封して送付し、また、証拠書類等を別便で送付する旨を伝えた。なお、ゴードン社負担額につき、三二万〇三七〇円の為替差損が生じたが、未使用残高が一〇五五万四六九三円あったため、右未使用残高から右為替差損を差し引いた残高一〇二三万四二六九円が翌事業年度の原告負担分に繰り越された。

イ 昭和四七年四月一日から昭和四八年三月三一日までの事業年度について

ゴードン社は、当期における広告宣伝費の自己負担分を四万四〇〇〇ポンドとし、四回に分割して原告に送金した。原告は、ゴードン社の商品に関する広告宣伝、販売促進活動を実施した後、ゴードン社に対し、昭和四八年六月一五日付け書簡で、その報告をし、計算書を同封して送付したが、証拠書類等は送付しない旨を通知した。なお、未使用残高一〇六六万九一六〇円は、翌事業年度の原告負担分に繰り越された。

ウ 昭和四八年四月一日から昭和四九年三月三一日までの事業年度について

ゴードン社は、当期における広告宣伝費の自己負担分を三万ポンドとして原告に送金した。原告は、ゴードン社の商品に関する広告宣伝、販売促進活動を実施した後、ゴードン社に対し、昭和四九年七月三〇日付け書簡で、その報告をし、総括計算書及び明細書を同封して送付した。ゴードン社は三〇〇万円の追加負担をしたが、なお、一六八万一四六〇円の支出超過となり、これは翌事業年度に繰り越された。

エ 昭和四九年四月一日から昭和五〇年三月三一日までの事業年度について

ゴードン社は、当期における広告宣伝費の自己負担分を三万ポンドとして原告に送金した。原告は、ゴードン社の商品に関する広告宣伝、販売促進活動を実施した後、ゴードン社に対し、昭和五〇年六月五日付け書簡で、その報告をし、実際に支出した費用三二一一万七四三三円を双方の負担割合に応じて配分し、ゴードン社の負担額を一八九四万九二八五円、原告の負担額を一三一六万八一四八円と算出したうえ、ゴードン社負担額の超過分一四二万九七一五円を翌事業年度の予算に繰り入れる旨を通知し、計算書を同封して送付した。ゴードン社は、原告に対し、同月二六日付け書簡で、右扱いを了承し、原告の日本における広告宣伝活動に対する不満を述べるとともにゴードン社が翌事業年度の負担分として二万ポンド以上の拠出をすることができない旨を通知した。

オ 昭和五〇年四月一日から昭和五一年三月三一日までの事業年度について

ゴードン社は、昭和五〇年五月二八日付けテレックスで、当期における広告宣伝費の自己負担分を二万ポンドとする旨を通知し、その後、当該二万ポンドを原告に送金した。原告は、ゴードン社の商品に関する広告宣伝、販売促進活動を実施し、ゴードン社に対し、昭和五一年三月五日付け書簡で、昭和五〇年一二月三一日までの活動について報告し、実際に支出した費用二八九五万五二〇五円を双方の負担割合に応じて配分し、ゴードン社の負担額を一三三一万九三九四円、原告の負担額を一五六三万五八一一円と算出したこと及び証拠書類を別便で送付することなどを通知した。そして、原告は、ゴードン社に対し、昭和五一年四月一六日付け書簡で、同年三月三一日までの活動について報告し、総括計算書及び明細書を同封して送付した。ゴードン社は、同年四月二七日付け原告宛て書簡で、これに対し感謝の意を表するなどした。

カ 昭和五一年四月一日から昭和五二年三月三一日までの事業年度について

ゴードン社は、原告に対し、昭和五一年四月一四日付け書簡で、当期における広告宣伝費の自己負担額が一万五〇〇〇ポンドである旨を通知し、原告の広告宣伝活動に関する提案の概要を送付するように求め、同年七月五日から同年一二月二七日までに四回に分割して一万四九九九・七五ポンドを原告に送金した。原告は、ゴードン社の商品に関する広告宣伝、販売促進活動を実施し、ゴードン社に対し、昭和五二年三月八日付け書簡で、昭和五一年一二月三一日までの活動について報告し、実際に支出した費用三二八四万八三七八円を双方の負担割合に応じて配分し、ゴードン社の負担額を七〇九万五二五〇円、原告の負担額を二五七五万三一二八円と算出したこと及び証拠書類を別便で送付することなどを通知した。

以上の事実に前記(1)ないし(3)の事実を併せて判断すれば、本件交際行為は、広告宣伝、販売促進活動の一部であり、ゴードン社は本件交際行為を直接分担していなかったものであるところ、ゴードン社が原告に対して事前に交際行為の内容等に関する指示や原告の企画・立案に対する指示を与えていたとはいい難く、とりわけ、ゴードン社がその負担額を決定して原告に通知し、さらに場合によっては、その一部を送金した後に、原告がゴードン社に対して広告宣伝、販売促進活動の提案をしていたこと、ゴードン社が原告の提案に対しての若干の意見を述べたことはあったものの、変更・修正等を求めたことは窺われないこと、活動項目別の予算額と実行額が対応していなかったこと、広告宣伝、販売促進活動の終了並びに支出に関する計算書及び証拠書類の送付前にゴードン社がその負担額の全額を原告に送金したこと、未使用残高及び支出超過分については、原告が翌事業年度に繰り越す旨を決定してゴードン社に通知し、精算等が行われなかったことなどの事情に照らすと、ゴードン社が事前に原告と本件交際行為について十分な協議を遂げ、直接交際行為を担当した原告に対して主導的役割を果たしたと認めることはできず、そのほかゴードン社につき本件交際行為を一部分担したと評価することのできる事情を見出すことはできないといわなければならない。したがって、ゴードン社と原告が共同して本件交際行為をしたものと認めることはできない。

〈3〉 マルタン社と原告との間の本件交際行為に係る具体的事実関係につき、〈証拠〉によれば、次の事実が認められる(以下、マルタン社の事業年度ごとに見ていくことにする。)。

ア 昭和四六年四月一日から昭和四七年三月三一日までの事業年度について

原告は、マルタン社が昭和四六年三月に確約した同社負担額二万三五〇〇ドル(円換算八四六万円)に基づきマルタン社の商品に関する日本における広告宣伝、販売促進活動費総額九一七万八五五一円の予算提案書を作成し、昭和四六年六月三日付け原告本店宛て書簡にこれを同封して、マルタン社に対する連絡を求めたが、右予算提案書の内容は、マルタン社負担額は同社が確約した右二万三五〇〇ドル(円換算八四六万円)に原告負担額を加えて総予算額を九一七万八五五四円とし、活動項目ごとに各予算額を記載したものであり、その詳細は記載されていない。原告は、マルタン社の商品に関する広告宣伝、販売促進活動を実施した後、マルタン社に対し、昭和四七年七月一七日付け書簡で、その報告をし、支出超過額一〇六万二七四九円のうち、国際バーテンダー協会関係費用の超過額六四万六一五三円全額及び残額について両者の当初負担額の割合で按分して算出したマルタン社負担分三五万二四三八円を当初負担額に加算した金員の送金を求め、支出に関する明細書(活動項目別の予算額と実行額の対比は、別表五の3記載のとおりである。)を同封して送付し、また、証拠書類を別便で送付する旨を通知した。

イ 昭和四七年四月一日から昭和四八年三月三一日までの事業年度について

原告は、マルタン社に対し、昭和四七年二月一四日付け書簡で、当期の広告宣伝、販売促進活動に関する企画提案をしたが、その内容は、総予算額を一〇三〇万円とし、活動項目ごとに各予算額を付記したうえ、各項目につき若干の説明を加えたもので、その詳細は記載されていない。マルタン社は、その負担額一五〇〇万円を原告に送金した。原告は、マルタン社の商品に関する広告宣伝、販売促進活動を実施した後、マルタン社に対し、昭和四八年六月一日付け書簡で、その報告をし、計算書を同封して送付したが、マルタン社の同意を得て支出に関する明細書の提出を省略した。なお、未使用残高二七四万四五四一円は翌事業年度の原告負担分に繰り越された。

ウ 昭和四八年四月一日から昭和四九年三月三一日までの事業年度について

マルタン社は、原告に対し、昭和四八年一〇月二六日付け書簡で、広告宣伝費として一八〇〇万円を追加拠出すると決定したこと等を通知し、同年一二月一八日付け書簡で、広告宣伝、販売促進活動に関する最新の予定表が見当たらないため、これに代わる書面の用紙を添付して返送することを求めた。原告は、マルタン社の商品に関する広告宣伝、販売促進活動を実施し、マルタン社に対し、昭和四九年三月二五日付け書簡で、昭和四八年一二月三一日までの活動に係る支出の報告をし、昭和四九年三月三一日までの支出の予測をしたうえ、支出に関する計算書を同封して送付した。

エ 昭和四九年四月一日から昭和五〇年三月三一日までの事業年度について

原告は、マルタン社の商品に関する広告宣伝、販売促進活動を実施した後、マルタン社に対し、昭和五〇年六月一〇日付け書簡で、その支出に関する報告をし、マルタン社の負担分のうち未払分を七〇九六万五三七二円と算出したうえ、その支払を求め、支出に関する計算書二通を同封して送付し、また、支出に関する証拠書類を別便で送付する旨を通知した。

オ 昭和五八年四月一日から昭和五一年三月三一日までの事業年度について

マルタン社は、原告に対し、昭和五〇年七月一七日付け書簡で、広告掲載に関するA案とB案の詳細な予定表を送付することを求めるとともに、原告の使用可能金額を提示したうえで、原告が提案する支出額を直ちに提示することを求めた。これに対し、原告は、同年八月二九日付けマルタン社宛で書簡で、A案について予算の明細及び提案内容を説明し、続いて、同年九月二三日付け書簡で、新たに折衷案を提示した。原告は、マルタン社の商品に関する広告宣伝、販売促進活動を実施し、マルタン社に対し、昭和五一年三月一六日付け書簡で、昭和五〇年一二月までの支出に関する報告をし、マルタン社の負担額を一億〇一一九万八八五七円と算出してその送金を求め、支出に関する総括計算書及び明細書を同封して送付し、続いて、昭和五一年四月一六日付け書簡で、同年三月までの報告をし、支出に関する総括計算書及び明細書を同封して送付し、また、支出に関する証拠書類を別便で送付する旨を通知した。

カ 昭和五一年四月一日から昭和五二年三月三一日までの事業年度について

当事業年度の当初予算額は、一億八九〇〇万円(マルタン社の負担額一億二一〇〇万円、原告の負担額六八〇〇万円)であったが、途中で増額され、最終予算額は、二億〇二〇〇万円(マルタン社の負担額一億二四〇〇万円、原告の負担額七八〇〇万円)となった。原告は、マルタン社の商品に関する広告宣伝、販売促進活動を実施し、マルタン社に対し、昭和五二年三月一八日付け書簡で、昭和五一年一二月までの支出に関する報告をし、そのうちのマルタン社の負担額を一億二〇七一万〇六〇七円と算出したが、同年四月に同年三月までの支出について報告し、マルタン社の負担額を通知する予定であるから、直ちに送金する必要はない旨を通知し、支出に関する総括計算書及び明細書を同封して送付し、また、支出に関する証拠書類を別便で送付する旨を通知した。

以上の事実に前記(1)ないし(3)の事実を併せて判断すれば、本件交際行為は、広告宣伝、販売促進活動の一部であり、マルタン社は本件交際行為を直接分担していなかったものであるところ、マルタン社が原告に対して事前に交際行為の内容等に関する指示や原告の企画・立案に対する指示を与えていたとはいい難く、とりわけ、マルタン社がその負担額を決定した後に原告が広告宣伝、販売促進活動の企画・立案をし、これをマルタン社に提示していたこと、原告の提案の内容は、活動項目ごとに予算額を記載したものであって、若干の説明が付されたことはあるものの、詳細は一切記載されていなかったこと、マルタン社が原告に対して意見を述べたことはあるが、それは極めて例外的なものであったこと、活動項目別の予算額と実行額が対応していなかったこと等の事情に照らすと、マルタン社が事前に本件交際行為について十分な協議を遂げ、直接交際行為を担当した原告に対して主導的役割を果たしたと認めることができず、そのほかマルタン社につき本件交際行為を一部分担したと評価することのできる事情を見出すことはできないといわなければならない。したがってマルタン社と原告が共同して本件交際行為をしたものと認めることはできない。

〈4〉 原告とグランツ社間の本件交際行為に係る具体的事実関係につき、〈証拠〉によれば、グランツ社の昭和五一年一月一日から同一二月三一日までの事業年度につき、次の事実が認められる。

グランツ社は、その負担額全額として、昭和五一年六月二三日、同年一二月二八日及び昭和五二年二月一〇日の三回に分割して、合計二七一八万一一〇四円を原告に送金した。もっとも、原告は、昭和五一年一二月後半に販売促進活動を行うには予算が不足することが判明したので、原告負担のものに予算を超過して支出することを決定し、その結果、五四四万三一七四円を超過して支出した。原告は、グランツ社の商品に関する広告宣伝、販売促進活動を実施した後、グランツ社に対し、昭和五二年三月七日付け書簡で、その支出に関する報告をし、原告が一二〇〇万円の負担追加をしたことを通知し、支出に関する総括計算書及び明細書を同封して送付し、さらに別便で支出に関する証拠書類を送付する旨を通知した。

以上の事実に前記(1)ないし(3)の事実を併せて判断すれば、本件交際行為は、広告宣伝、販売促進活動の一部であり、グランツ社は本件交際行為を直接分担していなかったものであるところ、グランツ社が原告に対して、事前に交際行為の内容等に関する指示や原告の企画・立案に対する指示を与えていたとはいい難く、とりわけ、予算不足の際に原告が予算超過分をすべて負担することとして販売促進活動を続け、実際にも多額の予算超過額を負担したこと、グランツ社が原告から計算書及び証拠書類の送付を受ける前にその負担額の全額を原告に送金したことなどの事情に鑑みると、グランツ社が事前に原告と本件交際行為について十分協議を遂げ、直接本件交際行為を担当した原告に対して主導的役割を果たしたと認めることはできず、そのほかグランツ社につき本件交際行為の一部を分担したと評価することのできる事情を見出すことはできないといわなければならない。したがって、グランツ社と原告が共同して本件交際行為をしたものと認めることはできない。

(5) 以上のとおり、原告がブキャナン社、ゴードン社、マルタン社又はグランツ社と共同して本件交際行為をしたと認めることはできないから、本件交際行為はこれを直接担当した原告が単独で行ったものというほかない。そうすると、原告が右各社と共同して本件交際行為をしたという理由に基づいて、原告の交際費ではなく、右ブキャナン社、ゴードン社、マルタン社又はグランツ社の交際費であると原告が主張する支出部分、すなわち、前記のとおり、四六事業年度につき、九〇七万五四二二円、四七事業年度につき、七〇一万三八八一円、四八事業年度につき、一四六九万一六六〇円、四九事業年度につき、一五四一万〇一五二円、五一事業年度につき、八五三万五六七一円は、いずれも原告の交際費であるというべきである。

3  そこで、本件更正及び本件決定の適法性について判断すると、右の争点以外の被告の主張は、いずれも当事者間に争いがないから、原告の所得の金額は、四六事業年度につき、五億六六〇一万〇九六五円、四七事業年度につき、一億六二〇六万一六九三円、四八事業年度につき、三億八六二四万四九六九円、四九事業年度につき、五億七一五〇万四三四八円、五一事業年度につき、四億八五七三万二四一四円となり、本件更正は、いずれもその所得の金額が右所得の金額の範囲内であるから適法である。また、本件更正がいずれも適法であるから、これを前提とする本件決定もいずれも適法である。

三  よって、原告の請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宍戸達徳 裁判官 北澤 晶 裁判官 小林昭彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例